菅元首相が安倍首相を名誉毀損で提訴した。彼のブログによれば、「内容は全くの虚偽の情報に基づき私の名誉を著しく傷つける中傷記事であるだけでなく、民主党と民主党政権に対しマイナスとなるイメージを植え付け、選挙の公平性をも損なうもの」だという。もとのメルマガの記事は次のようなものだ。
「菅総理の海水注入指示はでっち上げ」という見出しは間違っていない。菅氏は海水注入を指示したのではなく、止めようとしたからだ。菅総理が「俺は聞いてない!」と激怒したのも、関係者の証言とそう違わない。事実誤認は「19時25分に海水注入を中断」という部分だろう。
しかし、これは吉田所長の演技に東電本社がだまされたものであることが、政府事故調の報告書で初めて明らかになった。したがって5月20日の段階で、安倍氏を含むほとんどの関係者が、実際に中断されたと思い込んだのは自然である。ましてこの場合、菅氏が海水注入を中断させる意思があったことは、多くの関係者が証言しているので、それほど大きな誤りともいえない。
こういう場合、事実誤認は名誉毀損の必要条件ではない。意図的に事実を歪曲したのではなく「真実と信じる相当の根拠」があれば足りる。また批判の対象が「公人」であれば、多少の事実誤認は許容される。
私は法律の専門家ではないし、訴状を見ないと断定的なことはいえないが、こうした名誉毀損訴訟の常識から考えても、菅氏が勝訴する可能性はほとんどないと思われる。むしろ彼が具体的にどのようにどなり散らし、でたらめな危機管理をしたかが関係者の証言で明らかになるのは、いいチャンスだ。菅氏にとっては、とんだブーメランになるだろうが。