世界が注視するバーナンキFRB議長のジレンマ --- 岡本 裕明

アゴラ

注目されたバーナンキFRB議長の議会証言。事前コピーは「雇用の見通しの明るさが相対的に低下するような場合やインフレ率が2%に向けて上昇する気配が感じられない場合、また最近引き締まっている金融環境について緩和の度合いが不十分で当局の責務達成が不可能だと判断されるような場合には、現在の購入ペースがより長期にわたり維持される可能性がある」(ブルームバーグ)となっており、年内の金融緩和減速の意向を一段階後退させたようにみえます。証言そのものもこのラインに沿っています。


この議会証言を通じた氏の発言は世界経済や市場に大きな影響を及ぼすことになり、仮に金融緩和減速時期が先送りされるようならば日本円も対米ドルで円高基調になる結果を生みます。理由を考えてみましょう。

私が一番気にしているのがIMFが今月9日に発表した世界経済見通しで前回の3.3%の成長から3.1%の成長へと下方修正していることであります。特に中国は7.8%と0.3%ポイント下方修正され、先行きが懸念されています。アメリカと日本は好調を維持し、日本はG8では最大の伸びを見込んでいる点では評価されていますが、日本だけ伸びているのは眠っていた国内需要の回復という要素が主体と判断しています。

グローバル化が進む中、もはや一国経済を語るには地球儀ベースで見ないと何もわからない状態になっています。その中で中国を中心として供給過剰で在庫が積みあがっていることによる経済ダメージはアメリカ経済にも否が応でも影響してきます。つまり、アメリカが内需を中心に景気の回復感が強まったとしても奥行きがない、ということになります。

事実、アメリカのインフレ率は2%に達成できず、むしろ、下がり気味となっています。バーナンキ議長が失業率と共に注目しているインフレ率がひとつのベンチマークとなる2%に達成できなければ金融緩和を止める積極的理由が存在しなくなります。日本が早すぎるゼロ金利からの離脱でデフレ脱却から失敗した教訓が頭にある可能性もあるでしょう。

雇用に関しては確かにこのところ底堅さが出ています。失業率については労働参加率により影響を受けるため、雇用の増減とはリンクしません。今後、失業率が明白なる下落トレンドを形成するか読みにくいところです。アメリカは早期退職という選択肢があるものの医療保険のために結局は働かなくてはいけないというジレンマもあり、34年ぶりの低い労働参加率もアメリカ景気回復に伴い参加率上昇に転じれば失業率上昇に繋がるバイアスがかかりやすくなることも事実なのです。

とすれば、バーナンキ議長率いるFOMCの緩和減速への判断基準に届かない可能性は大いにあるのかもしれません。以前、お伝えしたようにバーナンキ議長は来年早々その任期が切れるわけで氏のほぼ一貫した金融緩和政策について「まいた種を刈り取る」作業をしたいところなのでしょう。ですが、それと裏腹に経済は低空飛行から高度を増すことが出来ない、というのが妥当な表現だと思います。

アメリカが中国との会話を深く押しし進めている一部の理由には経済的インパクトを推し量っているのではないかと思います。あらゆる可能性とそれに対する対応は事前にシナリオとして織り込む必要があります。ならば、バーナンキ議長にこの一ヶ月で心情の変化があったとすれば、裏には何があるのか、個人的に興味があるところです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年7月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。