温暖化論にも、流行り廃りがある。わが青春の70年代に流行った説は、今から見れば、なかなか、おもろい。
まず、何らかの原因で地球の温度が少し上がる。そのせいで、海水中の二酸化炭素が大気中に放出される。温室効果。大気の温度がさらに上がり、海水中の二酸化炭素が……。というサイクルが回り。そのうち、海水自体が蒸発しはじめ、雲やら、水蒸気やらの温室効果も加わり、ついには、海が丸ごと干上がり灼熱地獄。人類滅亡どころか、地球上に生物は住めなくなる……。どや、ワイルドやろ。
荒唐無稽な話に見えるが、実はこれ、金星で実際におこったことや。その昔、川があった痕跡があるのに、今では見渡す限りの砂漠、上空はぶ厚い雲で覆われている。そやから、当時は、温暖化という話には「金星化」という言葉がついて回っていた。
ちなみに、さらに前(わが少年時代)には、「氷河期が来るぞ」と盛んに言われておった。現状の温暖化論に対して、科学的議論以前に鼻で笑いたくなるのは、ワシがこういう過去のイカガワシイ環境論の流行を知っておるからやと思う。同世代または、それより上の科学者仲間や先輩には、同じ考え方のひと、けっこう多いで。
話を金星化に戻そう。現状の温暖化論への反論で、「二酸化炭素量の増加が化石燃料や環境破壊起源ではなくて、水温上昇による海からのものや」というようなことを言うやつがおるが、もしそうなら喜んでいる場合と違う。金星化が始まっている証拠なんやからな。今更、原発の話をしても、「屁をこいてからケツ押さえとる」ようなもんやで。
さて、ほななんで、今では金星化が流行らんようになったかというと、古気候の研究が進み、今よりはるかに熱くて二酸化炭素が多かった時代が、何回も地球にはあったということがわかってきたからや。
もし、金星化がおこるなら、遠の昔におこっていたはずや。
生物が発生してからの二酸化炭素の量の経緯を簡単にまとめると、まず、三葉虫などの大型生物が出始めた古生代前半、二酸化炭素の量は今の10倍以上、そら、まだ石炭てなものが1gもなかった時代の話やから、当然と言えば当然や。
その後、古生代後半になって、陸上に大森林が生い茂る時代になると、酸素が増えて二酸化炭素は激減する。その後、一時、今ぐらいに落ち着いて、恐竜時代直前に、再び今の数倍に上昇。
恐竜の時代(中生代)は、二酸化炭素が減少していた、きっと連中は原発を使っておったんやろな。恐竜と原発、なんか似合いそうや。デカくて、凶暴で、史上最強のようで、ちょっとしたことで……。まあ、やめとくわ。その後、恐竜絶滅のころに、二酸化炭素が今のレベルになったというのが、だいたいの経緯や。
ここからわかることは、第一に、植物、特に陸上植物が二酸化炭素を吸収する力は、侮りがたいということや。地球が金星化しない一番の理由は太陽からの距離が遠かったということらしいが、植物(とサンゴ)によるブレーキの効果も無視できん。
現状の二酸化炭素を考えるんでも、辻元センセなんかは、植林に全く期待しておれれないみたいやけど、要は植林のやり方やないのかな。場所、品種、育成方法、伐採後の管理なんぞの研究開発を進めたら、かなりのことが出来るのではないやろか。
それに、もし化石燃料の使用を即時全面禁止したとしても(無茶な話や)、これまでに増えた二酸化炭素による温室効果は(仮にあるとしたらやで)、そのまま続くことになる。二酸化炭素量を本気で元に戻すなら、(辛気くさいが)植林ぐらいしか、やることがないがな。
第二に、古気候の分析から二酸化炭素が多かった時代を考えてみると、陸上植物が大繁殖した石炭紀も、巨大な肉食動物が大陸上を闊歩していた恐竜時代も、生物にとって決して住みにくい時代ではなかったと思う。少なくとも、氷河期なんぞよりは、種の多様性にしろ、養える地球人口の上限にしろ、ええ環境やと思う。
「よっしゃ、さっそく石炭ポンポン炊いて温暖化大促進運動じゃぁ」と言いだすほど、ワシもさすがにノー天気やない。急激な気温上昇が、一部の生物相なんぞに悪影響をもたらすのは、避けられへんからな。第一、何がおこるか不確定や。
そやけど、力ずくで二酸化炭素量を産業革命以前まで戻しにかかるのと、ある程度の(IPCC予想ぐらいなら十分、「ある程度」と言えると思うが)温暖化に付き合いながら、環境を整備していくのとでは、人類社会の負担の内容と程度は全く違ったものになる。
ちなみに、現状と逆に、もし氷河期の到来が高い確率で様相されるなら、ワシはかなり強硬な原発再稼働論者になると思う。
温暖化や二酸化炭素の増加それ自体は、多くの植物にとって、むしろ追い風になる。ただし、一方、環境の混乱という形で、ある地域の現生植物にダメージを与える可能性は非常に高い。そやけど、基本的には追い風であることは、理屈で言っても、原生植物の実験的研究からも、古気候と古生物の関係からも、かなりはっきりしている。
要は、石炭紀や恐竜時代におこった、植物の大繁栄を人類がサポートしてやることが大事やと思う。これが成功すれば、自然に二酸化炭素濃度は下がってくる。
気の長い話ではあるが、原発の再稼働をしようがしまいが、はやいとこ、この方面の研究を進めていくべきやと思うがのう。
ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト