精神分析学の元祖ジークムント・フロイト(1856年~1939年)は「宗教は強迫ノイローゼだ。その教えは幻想に過ぎない」(「フロイト著「一つの幻想の未来」)と述べ、宗教が人間に与えるものは全てネガチィブだと考えてきた。
▲ウィーンのフロイト博物館
そのフロイトの宗教観は現代の知識人たちにもこれまで大きな影響を及ぼしてきたが、ここにきてフロイトの宗教観の間違いを指摘する学者が増えてきた。
オーストリアの日刊紙サルツブルガー・ナハリヒテンは7月16日、これまで対立的に受け取られてきた「宗教性」と「精神的健全性」の間に関連性があると指摘する学者の見解を紹介している。以下、同紙のブルックモーザー記者の記事を紹介する。
ジークムント・フロイト大学でノイローゼ心理学研究グループを主導しているラフェエル・ボネリ教授(Raphael M Bonelli)は「宗教は人間の精神生活にネガティブな影響しか与えないというフロイトの考え方は偏見だ」と指摘、「宗教性が人間の健全な精神生活を営む上で重要な影響を与えている」と主張している。
「19世紀後半、当時の精神分析学者は宗教といえばヒステリーやノイローゼを連想してしまったほどだ。フロイトによって創設された精神分析学は、宗教的体験と精神的健康を別々の問題として扱ってきた」という。すなわち、人間の宗教性を軽視してきたわけだ。
1980年代に入り、米国のデューク大学のデビット・ラーソンらが1978年から1989年までの精神分析に関する35の調査報告を分析し、「報告の72%は宗教性と精神的健康との間にポジティブな関連性があると記述している。宗教を通じて精神生活が悪化したという調査報告は16%に過ぎない。ちなみに、12%は両者に関連性を見いだせなかったと報告している。
ボネリ教授は目下、デューク大学と連携して1990年から2010年の間の調査報告を研究している。同教授によると、「約74%は両者間にポジティブな関連性が実証され、両者間にネガティブな関連性があったのは5%に過ぎなかった」という。最新の調査でも、人間の宗教心が健全な精神生活に不可欠であることを追認しているわけだ。
同教授は「全ての調査報告は認知症、自殺、ノイローゼの場合、宗教性はポジティブな影響を与えると実証している。また、79%が欝病に、67%が依存症候にポジティブな影響が見られた。その一方、統合失調症や双極性障害の場合は両者の関連性は学問的にはまだ実証されていない」という。
いずれにしても、精神分析学の祖・フロイト先生の宗教観は、学問的裏付けのない偏見に過ぎないわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月20日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。