独週刊誌シュピーゲル(7月15日号)を読んでいて驚いた。人間の頭脳にはミラーニューロン(独Spiegelneuronen)という神経系統が存在し、他者の行動を模写するだけではなく、その感情にも反応する機能があるという。
▲独週刊誌シュピーゲルの表紙「同情の魔法」
同誌はフローニンゲン大学医学部のクリスチャン・カイザース教授(アムステルダム神経学社会実験研究所所長)とインタビューしている。同教授は「頭脳の世界はわれわれが考えているように私的な世界ではなく、他者の言動の世界を映し出す世界だ」というのだ。すなわち、われわれの頭脳は自身の喜怒哀楽だけではなく、他者の喜怒哀楽に反応し、共感するという。その機能を担当しているのがミラーニューロンという神経系統だ。
社会学では「人間は関係存在」とよく言う。人間は1人で存在するのではなく、他者との関係を通じて存在し、発展するという。ミラーニューロンの存在が判明したことで、人間は関係存在であり、社会的存在だということが最新の神経科学の研究を通じて実証されたわけだ。
ミラーニューロンは1996年、イタリアのパルマ大学の頭脳研究者Giacomo Rizzolatti氏の研究チームが偶然にその存在を発見した。最初はサルの実験で判明し、後日、人間にもミラーニューロンが存在することが確認された。
下前頭皮質と下頭頂皮質にその存在が判明している。学者たちの間では「神経科学分野における過去10年間で最も重要な発見」と評価する声もある。
1人が欠伸すると、傍の人も欠伸が伝染する。また、悲しい映画を見ていて主人公の悲しみ、痛みに共感し、泣き出す人が出てくる。その共感、同情は、人間生来、備えているミラーニューロンの神経機能の働きによるわけだ。
もちろん、その説に反するような犯罪事件、連続殺人事件が日々、起きている。それらを見ると、人間の野蛮性、非情を感じるが、それらはミラーニューロンの神経機能の欠陥と見ることができる。
ミラーニューロンの機能が完全に解明されるまで学者たちの研究を持たなければならないが、人間に相手の喜怒哀楽に共鳴し、それを共有する神経系統が存在しているということは驚くべき発見だ。
教授は「わたしたちは他人の苦悩を見ることに耐えられない。なぜならば、その苦悩が自身をも苦しめるからだ」と述べ、「わたしたちは個人形態で生存しているのではなく、ネットワークされた社会の構成体として生きている」と主張する。教授の話を聞いていると、人間の神秘さと素晴らしさを感じる。ミラーニューロンが示唆する世界は人間の尊厳さの裏付けともなるものだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月22日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。