コンフェデ杯での三連敗から早一カ月。韓国、中国、オーストラリアと対戦する「EAFF東アジアカップ2013」が始まったが、日本代表メンバーは初選出が7人、他も国内組のサブメンバーとテストマッチの様相を呈している。W杯まで11カ月弱、ザックJAPANは現状のメンバー、戦術で本戦に臨み、勝利をあげることができるだろうか。
筆者は長いことサッカー日本代表を応援してきたファンである。そして、どちらかといえば甘口な方だ。実際に、過去アゴラでもお気楽な記事を書いていたりもする。
だが、そんな筆者でさえも、現状のザックJAPANに対しては不安を拭えないでいる。当記事では、ザックJAPANに必要な3つのこと、もっといえば、W杯本戦で勝ち抜くためには絶対に外せない要素を、優先順位が高い順に書いていこうと思う。
■ これぞザックJAPAN、という形をつくれ
まず第一に必要なのは、「これぞ日本」「日本らしさ」といえる、戦術やスタイルである。フォーメーションという観点では4-5-1でほぼ決まりだとは思うが、攻撃にしろ、守備にしろ明確な形がないのではないだろうか。
レギュラーメンバーのほとんどが海外でプレーし、トップリーグでレギュラーとして活躍できるところまで来ており、日本のサッカーレベルは確実に底上げされたことは間違いない。ただ、選手個人の能力の向上とチームとしての熟成はまた別の話である。
W杯予選に関しては、かなり有利な日程で試合が組まれたこともあり、終盤勝ちきれずもたついたものの、断トツとも言える成績で一位通過を決めることができた。しかし、W杯出場を決め、心身ともに余裕を持って臨んだコンフェデ杯は「惨敗」という結果に終わった。
過密日程、怪我人続出などのネガティブな理由がなく負けたということは、純粋にザックJAPANの力不足だったわけで、W杯優勝を目標に掲げる以上、ブラジル、イタリア、メキシコという強豪国が相手であれ、言い訳はできない。
さて、ここからが本題である。「力不足」と一言で片づけてしまったが、これはイタリア戦の試合の流れを振り返ることで簡単に説明できる。日本は前半2点リードするという最高の展開をつくりながら、ハーフタイム間際に1点返され、後半開始直後に立て続けに失点、意地を見せ同点に追いつくも、最後の最後で再び逆転を許し敗北している。
惜敗、そう言ってもいいかもしれないし、一昔前までは「得点力不足」とさんざん言われ続けた日本が、「カテナチオ」(守備の堅さをたとえた言葉)の異名を持つイタリア代表から3点をもぎ取った意味は決して小さくない。
つまり、3点取れるほど個々人のレベルは上がっている、しかし、4点取られてしまう脆さがあるということだ。そして、この脆さこそ深刻で、日本らしさやザックJAPANのスタイルを貫徹した結果ではないからこそ、根深いのである。
岡田武史監督が率いた2010年も、決して形ができていたわけではなかったが、直前でエースの中村俊輔を外し、本田圭佑を1トップに据えるという英断を下した。スリーボランチシステムを採用し、本田がタメをつくり、サイド攻撃を仕掛けるという戦術で見事2勝し、決勝トーナメントに進出した。
オシム氏が倒れ、急遽白羽の矢が立った岡田氏とは状況が違う。その意味でザックJAPANは、残り1年弱で本当の意味でのストロングポイントを見出し、徹底的に磨き上げなければならない。それが何であるかが決まらなければ、的確に23人を選ぶことはできず、チームは熟成せず、結果的に勝てないだろう。
だから、それが通用するか否かはさておき、「これで世界と戦うんだ!」というスタイルを確立し、それを実践しながらチームを熟成させるしかない。本田も香川も外せないとは思う。だが、この期に及んで本田がいないから、香川がいないからというレベルの議論はなされるべきではない。
まずは、形を示してほしい。その形で勝てることを強くイメージできるように。
■ センターバックは、チームの精神的支柱となれ
次に必要なのが、「ディフェンスリーダーのキャプテンシー(統率力・牽引力)」である。4-5-1だろうと3-4-3だろうと、センターバックが脆いチームは勝てない。これは同じく、先述したイタリア戦での守備が物語っている。
もちろん、失点はすべてディフェンダー、主にセンターバックの責任というわけではないが、やはりディフェンス面での安定感の有無により、「勝ちきれるチーム」と「守りきれないチーム」とに分かれてしまう。
おそらくこのまま行けば、センターバックは吉田麻也と今野泰幸が務めることになるだろうが、残念ながら、現状のザックJAPANは後者に分類されるだろう。
吉田は出場数30試合、2ゴール。オランダ・エールディヴィジで2シーズン、イングランド・プレミアリーグで1シーズン主力として活躍している。24歳にしては経験豊富と言える。また、今野は出場数71試合、1ゴール。前大会での出場は数分間ではあったものの、長年代表で活躍し続ける安定感抜群の選手だ。
二人とも間違いなく優秀なプレイヤーだとは思う。ただ、リーダーとしてキャプテンシーを発揮しているか、苦しいときに精神的支柱としてチームを鼓舞できているか、という観点で見ると厳しい評価をつけざるをえない。
過去4回のW杯におけるセンターバックを振り返ってみよう。1998年は、井原正巳と秋田豊。2002年は、松田直樹と宮本恒靖と中田浩二。2006年は、宮本恒靖と中澤佑二と坪井慶介。2010年は、中澤佑二と田中マルクス闘莉王。
初出場の98年は致し方ないとして、メンバーが固定されず大量失点を喫した06年に対し、02年、10年は失点が少なく、結果として決勝トーナメントに進むことができた。もちろん、選手の優劣は簡単に決められないし、それこそチームとしての仕上がり次第のところもあるが、センターバックのキャプテンシーやハートの強さが結果につながっていると言えるだろう。
また実際、中澤や闘莉王を復帰させるべきだという声も上がっている。W杯本戦ではそれぞれ36歳と33歳と身体能力としては下り坂に入ってはいるだろうが、両者ともキャプテンシー、ここ一番での勝負強さ(中澤は17ゴール、闘莉王は8ゴールを挙げている)という観点では図抜けており、決して非現実的な話ではない。
ただ、筆者は単純に彼らを招集すればよいとは思っていない。チームを鼓舞する存在という観点で「サプライズ選出」するのはありかもしれないが、むしろ、吉田や今野をはじめとするセンターバック陣が奮起し、もう一段上のレイヤーに行くべく成長してほしいと思っている。
そして、理想を言えば、「これぞ日本」「日本らしさ」といえる戦術やスタイルを追求する中で培われ、強く自覚するようになることが望ましく、そのとき初めてザックJAPANにおける本当のストロングポイントとなるのである。
■ ベンチ入りメンバーは、切り札となれ
最後に、上記2つのポイントを満たしたうえで、あえてもう1つ加えたいのが「切り札」の存在だ。サッカーにおいては、ジョーカー、スーパーサブなどと呼ばれるが、要は「何かやってくれそう」な選手である。
その意味で最も期待感のあるのが、先日の中国戦でデビューを果たし1ゴール、1アシストを記録した、柿谷曜一朗だ。現在セレッソ大阪に在籍し、リーグ戦17試合で10ゴールを挙げているが、フォワードとしての得点能力の高さはもちろんのこと、彼の持ち味である天才的なボールコントロールは目を見張るものがある。
同じくセレッソ大阪出身の香川真司、清武弘嗣、乾貴士らとタイプがかぶるためポジションがないという見方もあるが、それでもやはり一人で試合を決められる可能性を感じる選手は稀であり、チームのカンフル剤として投入する価値は十二分にある。
ただ、繰り返しにはなるが、こういった案は本質的なものではなく、ザックJAPANのスタイルが明確でないからこそ浮かび上がってくるものである。問題は、柿谷が本当に必要か否かわからないことにこそあり、筆者としては彼に合う戦術が選択されるのであれば、同タイプの選手が何人いようと彼を使わない手はないと提言するのみだ。
以上が、筆者の考える「ザックJAPANがW杯で勝つために必要な3つのこと」である。とにもかくにも、いちファンとしては、W杯で日本代表の試合を一試合でも多く見たい。そして、本田圭佑の「優勝しか考えてないんで」という言葉に心からワクワクしたいのだ。もしかするともしかするかもしれないと。
青木 勇気
@totti81