ローマ法王フランシスコは7月22日夜、法王就任(3月)最初の外遊先(イタリア国内を除く)、ブラジルの首都リオデジャネイロに到着した。同地で開催される青年カトリック信者年次集会(ワールドユースデー)に参加するのが一応、訪問の主要目的だ。
同集会には200万人以上の青年信者たちが世界各地から集まると予想されている。フランシスコ法王は同日夜、ブラジルのルセフ大統領らの歓迎を受けた。23日は休息日にあて、翌日(24日)から始まるマンモス集会に備える予定だ。
英国のウィリアム王子夫妻のロイヤル・ベビー誕生ニュースがなければ、世界に12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコの最初の外遊はひょっとしたら22日の最大の国際ニュースとなったかもしれない……バチカン法王庁関係者がこのように考えても不思議ではない。それほど、ローマ法王のブラジル訪問は本来、大きな意味ある出来事だ。その辺のことを少し説明したい。
世界12億人の信者の約41%を抱える南米教会はカトリック教会の希望の大陸といわれる(長期的には中国も)。ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世が455年ぶりに非イタリア法王に選出された時、共産政権下の国民は熱狂的に歓迎した。同じように、南米出身の新法王誕生は現地の信者たちを勇気付けているだろう。
「しかし、南米教会の現実は決して甘くない。南米教会で異変が生じているのだ。例えば、世界最大の信者数を誇るブラジル教会で急速に信者数が減少している。バチカン聖職者省によれば、ブラジルでは1991年、人口の83%がカトリック信者であったが、2007年、その割合は67%に急減した。1年間で平均人口の1%に相当する信者がカトリック教会から去っているのだ。この傾向が続けば、20年後には50%を割ってしまう。
南米教会の信者の急減はプロテスタント系教会の躍進が原因だ。形式や典礼に拘るカトリック教会の魅力が急速に失われてきたのだ。フランシスコ法王が南米発の法王だからブラジルを最初の外遊先に選んだのではない。南米教会が危ないからだ。バチカンは早急に対応しなければならない。
前法王のべネディクト16世は2007年5月9日から14日までブラジルを訪問したが、その最大理由は信者の脱会傾向にストップをかけるためだった。しかし、その後も信者離れは続いている。
そこでバチカンは「南米出身のローマ法王就任」という最後の切り札を切ったのだ。法王選出会(コンクラーベ)がアルゼンチンのベルゴリオ枢機卿を法王に選出したのは、南米に進出してきたプロテスタント系新宗教への対策だったのだ。繰り返すが、コンクラーベに参加した枢機卿たちは、南米教会の枢機卿に法王庁の大改革を期待したのではなく、南米教会を守るために南米出身のローマ法王が必要と考えたからだ」
当方はフランシスコ法王誕生直後のコラムの中で上記の内容を書いた。その趣旨は今も変わらない。フランシスコ法王の最大の使命は南米教会の救済にあるのだ。ワールド・ユースデーの参加はその直接の契機に過ぎない。法王はリオ到着直後にグアナバラ宮殿で開かれた歓迎祝典で、「私は金も銀も持ってていない。私にとって最も価値あるもの、イエスの福音を持参してきただけだ」と述べている。そして「若者たちは未来が訪れる窓だ」と述べ、青年たちに教会の未来を託している。南米初のローマ法王の凱旋訪問で南米教会を鼓舞したい、というのがバチカン関係者の偽りのない本音だろう。
ブラジルでは社会の不均衡、貧富の差などが表面化し、反政府デモが頻繁に行われている。28日までの滞在中、フランシスコ法王は若者たちの期待にどのように答えるだろうか、注視していきたい。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月24日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。