『実戦に役立つ相場格言』拾い読み

森本 紀行

日本の株式市場の歴史に残る1953年3月のスターリン大暴落。当時、独眼流の筆名で株式新聞に相場記事を書いていた石井久氏は、暴落の直前に、「桐一葉・落ちて天下の秋を知る!」との見出しで、相場に対する警告を鳴らしていた。その後、立花証券を買収され、事実上の創業者になられた方である。


この伝説の相場師、石井久氏の格言を集めたものに、『実戦に役立つ相場格言』というのがある。立花証券が営業資料として作った小冊子で、実に面白い。

この冊子、いつ頃作られて、どれくらいの期間、配られていたのかはわからない。私が最初に手にしたのは、1980年台の半ばである。その後、なくしてしまったが、最近、ヤフオクで再入手した。1050円であった。

いずれの格言も、ナルホド、と思うものばかり。なかでも、「長期投資は株価より企業力を買え」とか、「株価情報と企業情報を、区別して活かす」などは、明確に企業価値の変動と株価の変動とを異なる次元で認識されていたことを示すものとして、私には、興味深い。

しかし、私が、長らく、この格言集のことを覚えていたのは、「逆日歩に買いなし」という格言のせいである。当時の私には、なぜ、そうなのかわからずに、以来、ずっと気になっていたのだ。

逆日歩というのは、信用取引で、売りが上回ると、株が足りなくなり、借株をするので品貸料がかかる、その費用を売方から徴収することをいう。理屈上は、そもそも売方優勢なのだから、期日が近づけば、取組みは良くなるわけだし、売方は費用負担もきついので、買戻しを早める効果があるはずである。でれば、「逆日歩は買い」ではないのか。これが、当時の私の疑問である。

実は、「逆日歩に買いなし」をめぐる問題は、それなりに有名で、日本証券業協会証券教育広報センターのウェブサイトにある「相場格言集」にも、「逆日歩に売りなし」という、逆の格言のあることが紹介されている。では、なぜ、石井久氏は、「逆日歩に買いなし」としたのか。

実は、石井久氏には、「株価は価値プラス、需給プラス、人気」という格言もあるのだ。株価が、価値と需給と人気の三つの要素で決まることをいっているのだと思われる。だとすると、価値と人気においては、「逆日歩に買いなし」で、需給においては、「逆日歩に売りなし」となる。結局、総合的には、二対一で、「逆日歩に買いなし」になるということであろう。これだと、論理が通る。納得である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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