「電力経営の悪化を懸念、原発再稼動を」--葛西JR東海会長講演

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GEPR編集部

電力・電機メーカーの技術者や研究機関、学者などのOBで構成する日本原子力学会シニアネットワーク連絡会は3日、「原子力は信頼を回復できるか?」をテーマとしたシンポジウムを都内で開いた。ここでJR東海の葛西敬之会長が基調講演を行い、電力会社の経営状態への懸念を示した上で、「原発再稼動が必要」との考えを述べた。(講演要旨(上)(下)

電力会社、「出血」が続く状況は危険

葛西氏は国鉄の経営破綻後、分割民営化という内部からの改革を主導。1987年に発足したJRグループへと国鉄を再生に導いた実績がある。国鉄末期には支出の8割が人件費で経営を圧迫。42万人の人員の多さが問題になっていた。それを組合との交渉を重ねて、再雇用や早期退職でグループ20万人まで人員を減らした。


葛西氏はその経験を振り返りながら、電力会社の経営を分析した。企業運営のポイントの一つはコストの抑制だが「今の電力会社は支出の4-5割が燃料費、そして次に火力発電の増設などの設備費だ。この負担は原発を停止するという政策のために非合理に増えている」と、指摘した。「原子力をめぐり法的な手続きが混乱し、また原子力規制委員会の対応の遅れが重なって再稼動ができない。電力会社は一番のコスト要因が取り除けず、経営上で手の打ちようがない。このまま出血が続き企業体力を消耗するジリ貧では、経営が危険になる」と述べた。

日本は現在、原発停止の代替燃料として年間4兆円程度、中東からLNG(液化天然ガス)を余分に購入している。この現状について「国益を損ない、日本経済、そしてアベノミクスを失速させかねない」と問題を指摘した。

その上で「高品質で安定的かつ低価格でエネルギーを利用できることが、経済活動の土台になる。日本は無資源国という宿命を持つ。経済の悪影響が深刻になるまで、残された時間はあまりない」として、原子力政策、エネルギー政策で、安倍政権が原発再稼動、そして正常化のために早急な決断をすることが必要と強調した。

民主党のポピュリズムの悪影響

葛西氏は、民主党政権について、「政治家が自分の意見を持たず、他人の意見ばかり聞き、ポピュリズム(大衆迎合主義)に陥ることが多かった。エネルギー・原発問題で悪しき側面が出た」と、批判した。

その上で「事故に際して、初動時点で適切な広報をせず、放射能への過度な恐怖感を広げてしまった」「原発を無計画に止めた」「東京電力に無限の事故での責任を負わせた」「その結果、除染や賠償で東電に負担させればよいという無規律な状況が生まれた」と、菅政権による政策の失敗を列挙した。

「除染の範囲が広すぎて福島の被災者の方が帰宅できないなど、政策の悪影響が広がりつつある。民主党の失敗を安倍政権は早急に是正するべきだ」と、強調した。

信頼回復には何が必要か

一方で葛西会長は原子力関係者に「信頼回復のためには、関係者は反省を深め、安全確保のための努力を重ねてほしい」と注文をつけた。そして「主張には大義名分、つまり『正当性』が常に必要になる。自らの主張にそれがあるか常に考えてほしい」と自省をうながした。過去の国鉄の大事故では、失墜した信頼は、安全を高めることで少しずつ回復できたという。また「原子力は他の技術と同じように、リスクを認めつつも、英知を絞れば制御は可能と思う」と考えを述べた。

福島原発事故の後で、関係者の間には、原発への反感からの批判を怖れて、原子力問題での意見表明を自粛してしまう雰囲気がある。葛西氏は日本的な『空気』に萎縮してしまうことは理解を示した上で、「一般の人々に原子力を活用しない場合の問題、特に負担増などの問題が起こることを示すことが必要ではないか。それぞれの持ち場で一人ひとりが責任を果たすリーダーシップを取ってほしい」と奮起をうながした。そして「非日常の状況では、リーダーシップがなければ、物事も組織も動かない。使命感を持って再生してほしい」と、エネルギー、電力、原子力関係者への期待を述べた。

原子力への逆風の中であっても財界、そして企業の要職にありながら、社会への憂いから、おかしいことには「おかしい」と正論を述べる葛西氏の態度に、筆者は深い敬意を持つ。どの立場でも、発言者が批判を浴びず、自由に、そして冷静に原子力、エネルギーをめぐる議論ができる状況がつくられることを願う。

シンポジウムでは、エネルギー戦略研究会の金子熊夫会長(元外務省原子力課長、元東海大学教授)が「一般市民に向け、専門家が分かりやすい言葉を使って、エネルギーの現状を丁寧に説明する必要がある」と述べるなど、有識者が原子力の信頼回復に向けた提案を行った。GEPRではシンポジウム内容の抜粋を今後、提供する予定だ。

(GEPR編集部 ジャーナリスト 石井孝明)