日本でMBAが評価されないワケ --- 岡本 裕明

アゴラ

MBA、Master of Business Administration。日本語では経営学修士と呼ばれるこのタイトルは北米で名刺交換をすればしばしばお目にかかります。きらきら光るMBAの文字に思わず、こいつはできものか? と構えてしまったこともなかったわけではありません。

経済学などを基礎項目にしながらビジネスの実践をケーススタディしながらより実務に近いスタイルの勉強をすることから北米では高く評価されているのも事実です。MBAをもっているだけで給与は上がり、プロモーションもされやすくなるというのはある意味正しく、北米の社内では「あいつはMBAもっているから」と恨み節すら聞こえてくることもあります。


私の尊敬する日本人のお二人の方はペンシルバニア大学ウォートンスクールを出ていますが、この学校がMBAの発祥でもあります。その後、1990年代後半から2000年代初頭の頃にMBAをもって入社すればBMWがもれなくついくるというぐらいブームになったことがあります。私の当時の同僚もMBAをとるといってやけに頑張っていました。事実、その彼はMBAをとったのですが、日本での就職には一時、かなり苦労をしていました。外資に入ってようやく落ち着いたのですが、結局、MBAの評価をしたのは外資だったということなのかもしれません。

日本でも一部の大学がMBAのコースをオファーしていますが、その水準は国際レベルで比べると目も当てられない状況です。理由は内容よりも知名度、そして英語で授業が行われなければ外国人の学生は集まらないということでしょうか。日本の大学への留学生の数が減っているという話は時折聞きますが、外国人が日本の大学修士やMBAをとっても役に立たなければ意味がないのであります。

ならば教授陣がしっかりしているアメリカの方がよい、という発想でしょうか? 先日の選挙で当選した参議院議員の方々の略歴をみていたところ、東大よりもアメリカの大学やMBAをとっている人がやけに目だった気がします。

イギリスフィナンシャルタイムズのMBAランクは100位まで日本は入っておらず、エコノミストのランクには79位に国際大学(International University of Japan)が入っているだけであります。MBAのランキングはいろいろあるのでしょうけど、日本の大学は眼中にもない、ということでしょうか?

では日本はなぜMBAを重視しないのかといえば結局経営スタイルの相違だろうと思います。欧米は経営する人とスタッフは明白に別れています。日本のように現場でたたき上げた人が社長になるということは少ないのです。若い時から経営を学び、帝王学を学び、エリート街道を突っ走る人がその才能を社長や役員として開花させるといっても過言ではないでしょう。そして社長から社長へと渡り歩き、ジャンルがまったく違う業種でも経営は同じ、という発想で臨みます。

日本ではこの発想に反発が多く、評価されないことから結果としてMBAよりも社内でどれだけ貢献したか、が重要なのでしょう。もうひとつは社費でハーバードなど超一流のMBAに行かせて貰うと帰国後、退社するケースが後を立たないのであります。私が以前勤めていた会社でも帰国後半年で「辞めさせていただきます」と辞表を提出、何のための社費留学だったのか、ということで社内でもより一層ネガティブなイメージになったということかもしれません。

では、MBAをとった人間がその恩を裏切ってまでなぜ会社を退職する意味も重要でしょう。留学中の1年なり、2年なりの経験と勉学で日本型経営がアメリカで教える経営学にマッチしないということに気がつくのかもしれません。

日本の大学や大学院が世界に開かれ、国際的な水準を求めるにはあまりにも遠いところにある気がします。ただ、私は日本型経営を否定しているわけではありません。いや、むしろトヨタが2兆円も稼ぐのはチーム経営の結果であるとさえ思っています。ならば日本型経営を教えるMBAがあってもよいのかもしれません。それがもしかしたら今後世界が求める経営スタイルなのかもしれないのですから。

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。