前回に続き、太陽光発電による脱原発の可能性を考えてみます。毎度のごとく一応始めに言っておきますが、僕は太陽光発電に対してかなり懐疑的なスタンスを持っている立場ですので、読者の方はその点勘違いなきようよろしくお願いいたします。とりあえず前回の試算結果から「現状の技術を前提としたら太陽光発電は21.6円/kwhまでさがる」ということを引き継いで、「はたしてイノベーションで太陽光発電は原発レベルの8.9円/kwhを達成できるのか?」という観点で議論を始めたいと思います。
変換効率の今後の見込み
まずは技術革新の王道である変換効率向上の可能性について検討をしたいと思います。現状では市場で支配的な多結晶シリコン型と、競合となる事が見込まれる化合物系のCIS型の太陽電池のモジュール変換効率は
○ 多結晶シリコン型 :15%程度
○ CIS型 :13%程度
となっています。ぱっと見CISの方が変換効率が低いので多結晶シリコン型の方が有利に見えますが、NEDOの山梨での北社メガソーラーの実データを見てみると(下図の「化合物」にあたるのがCIS)、CISの健闘が目立ち、面積当たりの実際の発電量では両者とも甲乙つけがたいのが現状です。
(http://www.e-wei.co.jp/sustainable-tecnology_seminar/pdf/B-21.pdfから引用)
んでもって将来的な変換効率の向上の見込みとしてはNEDOがロードマップを出しており、それによると2025年には結晶型シリコン、CIS型ともにモジュール変換効率が25%に達するとみられています。この手の大規模技術開発は多少の幅はあれど、ロードマップから大きく外れることはないので、この数値を信頼してみたいと思います。
現状のCIS型と多結晶シリコン型の設備kw単価が同等と仮定すると、伸び率の高いCISの方がポテンシャルが高いことを意味しますから、ここではCIS型をベースに2025年時点での発電コストを計算すると
<2025年の発電コスト(製造の低コスト化による寄与含まず)>
=現時点での発電コスト÷変換効率の向上度合
=(21,6円/kwh)÷(25%/13%)
=11.2円/kwh
ということで2025年ごろにはCIS型の太陽光発電のコストが11.2円/kwhにまで下がることが見込まれます。ここまで来ると8.9円まであと一歩ですね。CIS型については原料にインジウムやセレンやガリウムというレアメタルを使っていることが不安要素ではりますが、インジウムは亜鉛や鉛の副産物で、セレンは銅精錬の副産物で、ガリウムはアルミ精錬の副産物なので、当面は供給不安がなさそうです。(参考:http://toyokeizai.net/articles/-/14449?page=3)ただ最近韓国が日本のリサイクル資源を大量に調達しているので、状況は少し変わりつつありますが。。。この辺の話はまた別の機会に。((参考:http://toyokeizai.net/articles/-/14449?page=3))
太陽光パネルの低コスト化技術
続いて太陽光パネルの低コスト化技術に関する議論に移ります。この点、多結晶シリコン型とCIS型を比較した場合、圧倒的にCIS型に分があります。まず第一に厚さが多結晶シリコン型(200μm)に比べ、構造的にCIS型(2μm)は圧倒的に薄いため、材料費が安くすむことがあります。多結晶型でも頑張って薄くしようとしていますが、180μmで打ち止めの感が出ていますし、そもそも材料メーカーや装置メーカーが自分たちの利益を減らすような技術開発を積極的に進めたがらないという事情もあります。(シリコンが薄くなったり、消耗品の交換の頻度がさがればさがるほど売り上げが減る。)
つづいて第二にCIS型の方が圧倒的にプロセスがシンプルで介在する事業者が少ないことがあります。先ほども述べたように、多結晶型シリコンの低コスト化を推進するには材料メーカーや装置メーカーとのハードな調整が不可欠で、一致団結しずらいところがあります。その一方でCIS型は(あくまで多結晶シリコン型に比べるとですが)関係者が少なく、低コスト化に向けて一直線に進める環境にあります。
そんなわけでここでは
○太陽光発電システムにおけるハードウェアの費用は60%程度である
→ローレンスバークレー研究所の発表を参考(ソース:http://pinponcom.jp/energy/residential-pv-installation-cost-in-germany-much-cheaper-than-us/)
○将来はCIS型が現在の半額程度までコストが下がり、主流になる。
→昭和シェルグループの2月の発表を参考(ソース:http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MIEP656K50YB01.html)
○太陽光発電システムのソフトコストは現状のドイツの水準以上よりは下がらない
という3つの前提を置いて、計算をしてみることにします。
【計算】
<2025年の発電コスト>
=11.2円/kwh×(1─(ハードウェアのコスト割合×ハードウェアのコスト低減分))
=11.2円/kwh×(1─(3/5×1/2))
=11.2円/kwh×7/10
=7.8円/kwh
ということで結果としては、将来的な太陽光発電のコストは7.8円/kwhとなり、原発の発電コストである8.9円/kwhをかろうじて下回る、ということになりました。むむ、意外。
総評
ということで本日の結論。以上の結果から送電コストの増加を無視すれば【原発の発電コスト(8.9円/kwh)>太陽光発電の発電コスト(7.8円/kwh)】となるわけで、
「2025年時点では太陽光発電の主流はCIS型と変わり、発電コストは7.8円/kwhとまで下がり、(送電コストの上昇を無視すれば)脱原発が可能となる。」
ということにさせていただきたいと思います。頑張れソーラーフロンティアって感じですかね。
なんだかこうした詳細な検討しているうちに、だんだん太陽光発電のファンになってきている自分がいまして、計算ばっかりしてもしょうがないので、今年度中にとある土地で中規模な発電所を作ることを計画し始めています。さてさてどんな結果が出ることやら。次回は太陽光発電の大量導入によって生じる送電コスト負担について考えてみたいと思います。
ではでは今日はこんなところで。
編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2013年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。