9月QE縮小の観測再燃、マーケットは調整ムード --- 安田 佐和子

アゴラ

あらためて9月の量的緩和(QE)縮小懸念が台頭し、ダウ平均とS&P500は3日続落中です。

米7月雇用統計が予想より弱く、失業率が2008年11月以来の水準へ改善した一因が労働参加率の低下だったことで、一部でQE縮小見通しは後退。ところが米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者がQE縮小の大合唱を再開しただけに、行ったり来たりのすれ違いとなりました。


FOMC参加者の発言を振り返ると。

5日→ダラス連銀のフィッシャー総裁(タカ派寄り、2014年の投票メンバー)「縮小が近づいている」

6日→アトランタ連銀のロックハート総裁(中立寄り、2015年の投票メンバー)「9月に縮小を開始する可能性がある」

7日→クリーブランド連銀のピアナルト総裁(ハト派寄り、2014年の投票メンバー)「労働市場の改善が継続すれば、縮小に着手するだろう」

特にアトランタ連銀総裁の発言は、注目。他に、「10月の縮小もありうる」と述べていたんです。10月はバーナンキFRB議長の記者会見を予定しないため「予定外の会見を行う場合もある」とまで踏み込んでましたね。同時に「雇用情勢および国内総生産(GDP)次第」とも付け加えておりました。相場にとっては、ここがダメ押しとなった感があります。

なぜかといいますと。

6日発表の米6月貿易収支は、342.24億ドルの赤字でした。市場予想の435億ドルより赤字幅を縮小しただけでなく、2009年10月以来の低水準を示現していたんです。内訳をみると、輸出が前月比2.2%増の1911.73億ドル。輸入は2.5%減の2253.97億ドル。輸出が大幅増となった上に輸入が減少し、赤字縮小につながりました。

米6月貿易収支、ドル高でも輸入が減少し輸出が増加したのは頼もしい。

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(出所: Calculated Risk

エコノミストの評価を見ると、さらに理解していただけます。

バークレイズのピーター・ニューランド米エコノミストは、今回の結果を受けて「実質のモノの貿易赤字は431億ドルと、前月の519億ドルから縮小し2010年1月以来の低水準となった」と指摘。米経済分析局(BEA)の試算より大幅に改善したため、「米4~6月期国内総生産(GDP)予想を0.7%ポイント引き上げ2.5%とする」とまとめています。ゴールドマン・サックスも、今回の貿易収支を背景に米4~6月期GDP見通しを速報値の1.7%から2.2%へ上方修正しました。

すなわち、

・米4~6月期GDPが速報値の1.7%から2%超へ上方修正される可能性が濃厚

・9月17~18日FOMCで公表される経済および金融政策見通しで、6月時点の成長率予想「2.3~2.6%」が下方修正される懸念が後退

米6月貿易収支の結果により、9月QE縮小の実施に一歩近づいたかたちなんです。ダウ平均やS&Pが最高値を更新していたため、利益確定の売り地合いが整ったことも下押し圧力を加えたのでしょう。FOMC参加者の一連の発言自体、S&P1700p超えなど発射台が高いことを見越した上での、確信犯だった可能性もあります。現状、下げ幅が比較的小さく市場参加者も少ないので、ダウ平均は50日移動平均線と一目均衡表の基準線近くにある15250ドル付近がいったんのメドですかね。

QE縮小があらためて視野に入るなか、この人は反対論説をぶっております。

10大ビックリ予想」でおなじみ、ブラックストーン副会長のバイロン・ウィーン氏です。同氏は、CNBCのスクォーク・ボックスに出演し「縮小を正当化する理由は見当たらない」と断言。マクロ経済には「Fedが緩和を停止させるいかなる兆候も現れていない」と切り捨て、インフレは目標値2%に届かず失業率も数値目標の6.5%を大幅に上回ると批判しておりました。

QE縮小と低金利維持政策に対する数値目標は別物とはいえ、強制歳出削減など財政引き締め策の真っ只中にあることから「2%付近の成長を維持するのに経済は金融政策に依存している」とも発言。縮小に対し声高に異議を唱えるほか、政府は公的支出を拡大させるべきとも主張していました。

ウォールストリートのホンネとして、イージーマネーを易々と手放したくはないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年8月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。