「外人比率23%の国」の外人嫌い --- 長谷川 良

アゴラ

スイスは日本人旅行者が旅してみたい国の上位にランクされることが多い。アルプスの同国は永世中立国家であり、欧州連合(EU)に加盟していない数少ない国だ。スイスといわれれば、アルプスの少女ハイジのイメージと重なる日本人も多いだろう。

単一民族国家の日本とは異なり、小国スイスには多数の民族が住んでいる。国自体、西部がフランス語圏、東部がドイツ語圏と共通言語で真っ二つに分かれる。欧州の国連本部があるジュネーブはフランス語圏であり、同国最大の都市チューリッヒはドイツ語圏、といった具合だ。


同国では昔から為政者から迫害された難民や政治亡命者が避難してきた。その結果、同国の外国人率は約23%と欧州ではダントツだ。

「スイスは世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”だ」と喝破した宗教者がいた。同国のジュネーブに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の本部があるのも決して偶然ではない。レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、カルヴィンもスイスに逃れ、宗教改革を起こした。ジュネーブは常にスイスの避難場所だった。そして自分の懐に逃げてきた避難者を決して追っ払うことはしなかった。

そのスイスで外国人排斥傾向が高まってきているという。独週刊誌シュピーゲルはスイスを「アパルトヘイトの国」と辛辣に批判しているほどだ。

同国で少数派民族や外国人への排斥傾向が表面化した最初の出来事は、同国が2009年11月29日、イスラム寺院のミナレット(塔)建設禁止を問う国民投票を実施し、建設禁止を可決した時だろう。イスラム・アラブ諸国から当時、激しい批判を受けた。

今回の直接の出来事は同国のアールガウ州の小町ブレムガルテンが難民申請者に対し、公共施設、例えば、市営プールの使用を禁止しようとしたことだ。それが伝わると、国内外から「民族主義的」といった批判の声が挙がった。

また、米国のトークショーの著名な女性司会者、アフリカ出身のオブラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)さんがチューリッヒの高級ブティクでバックを見ていた時、「あなたはこのような高級品は買うことは出来ないでしょう」と店員から言われたというのだ(店主が後日、謝罪している)。同国のトゥールガウ州のビュルグレンでは公共学校でのイスラム教徒のスカーフ着用を禁止した(同国連邦裁判所が先日、「禁止の十分な理由がない」と同禁止令を撤回させた)。

同国では北アフリカ・中東諸国の民主化運動「アラブの春」以降、それらの地域から難民申請者が激増し、犯罪が急増してきた。それに呼応して、国民の間で外国人排斥傾向が高まってきたわけだ。ちなみに、同国で6月9日に行われた難民法改正を問う国民投票では、現難民法の強化に約78.5%が賛成票を投じている。

スイスの難民数は人口比ではドイツ、オーストリア、フランスより多い。同国より多いのはスウェーデン1国だけだ。小国スイスで急台頭してきた外国人排斥傾向は他の欧州諸国へ伝染する危険性がある。それだけに、同国の動向を注視する必要があるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月14日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。