産経の盲従的「甲子園」礼賛記事を球団…いや糾弾する

新田 哲史

甲子園も中盤に差し掛かった。済美・安楽投手の「登板過多」を巡り、米メディアが騒ぎだし、その様子を日経がまた報じるという「場外戦」も盛り上がっている。さらに今度は産経電子版が、高校野球に対する考え方を巡って「内ゲバ」が勃発して興味深く注目した。だが、その一部のコラム記事に怒りを覚えたので書き置くものである。


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※写真は甲子園(wikipidiaより転載)

「内ゲバ」の発端は、高校野球に対するネット論調のまとめ記事(7月19日付)。当時はさほど話題になった印象もなかったが、筆者もさきほど読んでみて、酷暑下での試合運営など、至極真っ当な批判内容があるという印象だった。ところが、これに社内で噛み付いた男がいた。大阪本社のスポーツ担当らしい出崎敦史記者。去年9月から産経電子版の関西版で辛口コラムを書いているようだが、昨日(8月15日)のコラムでは、ネットユーザーの批判を「表面的」と切り捨て次のように反駁する。

「暑い夏」と「甲子園」は、高校野球の舞台装置として絶対に欠かせない。選手はみんな好きで野球をやっている。好きだから暑い日も寒い日も、甲子園を夢見て必死に球を追っている。暑いから試合はいやだ、という発想はありえない。

「酷暑批判」を再批判するあたりは、自らの野球部員体験という薄弱な根拠を元にしているものの、ここら辺は単なる「思考停止」だとスルーしてもいい。社内で異論があるところを堂々と外に見せる産経の鷹揚ぶりにむしろ好感がある。しかし見過ごせないのは次のくだりだ。酷暑で毎年のように選手や観客が脱水症状で運ばれている現状から運営方法に疑義を唱えている真っ当なネットユーザーの声に対し、出崎氏はこう一蹴する。

観客が高校野球の「改革」を主張するのもおかしい…(中略)…連日、甲子園を埋める大観衆も暑さは承知の上で、必死にプレーする高校球児たちと同じ空気を共有するために集まっている。

コラムを読んでいて、ネットで声を上げている人々に対する「蔑視」がにじみ出ているように感じるのは私だけだろうか。さらに懸念されるのは、高校野球はプロではなく、アマチュアだから大会運営に疑問や問題があるように感じたとしても異論は挟めないという立場を取っていること。では、アマチュア選手が主体の全柔連の一連の不祥事について周囲が声を上げることは許されないのだろうか?スポーツ記者とはいえ、言論封殺まがいの主張を臆面なく新聞社のサイトに提稿するあたり、空恐ろしさすら覚える。

なお、酷暑の中での開催についてだが、選手や観客の自己責任の一言で片づけるのはやはり首をかしげざるを得ない。筆者が野球記者時代に夏の大会を取材した2007年、同時期に大阪で開催されていた世界陸上では、早朝に競技を行った後、炎天下のお昼前後は競技を中断。酷暑の下、合理的な大会運営に筆者はカルチャーショックを受けて高校野球のガラパゴスぶりを痛感した。実はこの年、西日本の強豪校の監督が試合中に熱中症で倒れる事態もあった。まぁ出崎氏からみれば国際陸連のスケジューリングの理由について一切思考することなく、「ここは日本だ。高校野球と世界陸上を一緒にするな」と“攘夷論”をぶち上げるのだろうか。熱中症の監督が仮に重篤になっていたとしても「高校野球に殉じた」とでも美談記事すら書いてしまうかもしれない。ましてや筆者が指摘するような高野連の経営問題や放映権の是非など検証する問題意識も期待できないようだ。

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※写真は国立国会図書館が保存している2007年世界陸上公式サイト画面

朝日の記者すら今どき顔を赤らめるような高校野球への盲目的礼賛ぶりを見ていると、もしかしたら朝日への移籍でも画策しているのだろうか。産経から、待遇の良い朝日に転職する記者は多いしね。コラムを手土産に朝日へ行くようにも見える。産経の編集局長さん、確認した方がいいですよ。わはははは。

ま、出崎記者の個人的思惑の有無はともかく、産経は高野連とのしがらみはないし、お目付役として相応しい立場にいるはず。記者が高校野球への熱い愛情を持っているにせよ、公益財団法人傘下で行われる国民的行事という公共性があるのだから、取材対象には適度な距離を保ちながら「是々非々」で臨んでいただきたいと切に願う。

あー、怒りをぶちまけてちょっとスッキリ。
ではでは。ちゃおー(^-^ゞ

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ