「振り込め詐欺」被害が減らない理由

アゴラ編集部

いわゆる「振り込め詐欺」(※1)の被害が減りません。警察庁によれば、2013年上半期の振り込め詐欺を含む「特殊詐欺」(※2)の被害総額が211億7000万円と過去最高だそうです。年間最多だった2012年を30%以上も上回るペースで増えている。振り込め詐欺の上半期の被害額は72億8000万円。ブルネイの国王が振り込め詐欺の被害にあったり、米国などでも被害者が増えていて、こうした詐欺の増加傾向は世界的らしい。反面、検挙数が上がっているのにもかかわらず、主犯格の摘発数は低いままです。逮捕者は受け取り役などの年少者がほとんどで、詐欺グループの核心をつぶすまでにはいたっていません。


もちろん、加害者が一方的に悪いのは確かですが、これほどまで犯罪の手口や被害が社会に広く認知されている詐欺犯罪なのに、どうして被害が減らないんでしょうか。銀行振り込みなどから手渡しにするなど、犯人側が巧妙になっているのもあるでしょう。被害者は100人200人に一人か二人、といわれるように、電話やネットなど、不特定多数から罠にかかりやすい相手を物色する技術的な手段が発達してきたこともあります。また、核家族化が進み、身内がバラバラに住んでいて頻繁に連絡をとっていないこともあるかもしれません。

しかし、身内の不祥事をなんとかしたい、という親心や家族の心情を逆手に取った詐欺がなくならならず、日本に限らず世界的にも増えている、というのはどこか象徴的です。単に被害者が「愚か」だから、というのではない理由があるのでしょう。

犯人たちは人間という「社会的な生き物」の弱点を的確に狙い撃ってきます。振り込め詐欺の犯人たちは、孫や子ども、夫などが、会社の金を落としたとか、横領がバレそうになったとか、痴漢をしたとか、交通事故を起こした、といった不祥事を被害者に伝え、心理的なパニックに誘導します。多くのケースで身内を騙った犯人は、自分の不祥事を揉み消したい、と訴える。すると、祖父母や親、妻などの被害者の中には、不祥事を公にはしたくない、不祥事を起こした相手をかばいたい、といった気持ちが生まれます。

もしも仮に不祥事を起こしたのなら、それに対して社会的な責任をとるよう相手を説得するのが祖父母や親、妻がすべきことなのにもかかわらず、不祥事を穏便にすませ、できればなかったことにし、なんとか責任を回避したい、という心情が起きてくる。犯人はそこにつけこみ、一種の「共犯関係」を被害者との間に構築します。そして、被害者の多くは、窮地に陥った身内を助けたい一心で金を用意し、犯人に渡してしまうのです。実際、犯人からの電話に対し、身内になりすました相手を諭し、弁護士や警察官を騙った犯人に身内が犯した過ちは自分で責任を取らせるような態度を取った場合、犯人たちはすぐに犯行をあきらめるそうです。

こうした振り込め詐欺の被害者の多くは高齢者です。一方、犯人グループには若者が多いようです。暴力団などの反社会的組織による犯行より、暴力団と距離を置いた「反グレ」と呼ばれる犯罪集団によるものが増えている。彼らは、振り込め詐欺のコンサルタント役から指導されたり「指南書」を読んだりして短期的に荒っぽく犯行を重ね、捜査がおよんできそうになると手を引き、詐欺で稼いだ金で起業したりしているそうです。振り込め詐欺がなくならない背景には、不祥事を隠したい身内の心情があることもさることながら、お年寄りから金をだまし取ることに後ろめたさや罪悪感を感じない若者たちの存在がある。これもまた社会の写し絵のような気がします。

こちらは警視庁サイトの「母さん助けて詐欺への啓発ページです。呼び方について、オレオレ詐欺とか振り込め詐欺とかいろいろある。表題ブログでは、英語の表現から「母さん助けて詐欺」という言葉について考えています。

上級英語への道
「母さん助けて詐欺」はどこへ行った? (bank transfer scam)

※1. 振り込め詐欺とは、特殊詐欺のうち、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺を総称したもの。

※2. 特殊詐欺とは、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金等をだまし取る詐欺をいい、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝情報提供名目の特殊詐欺、異性の交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したもの。

※今週の「今日のリンク」は恐縮ですが「お盆バージョン」のため短めでやってます。


アゴラ編集部:石田 雅彦