「救国の英雄」の出現に期待するしかないエジプト情勢 --- 岡本 裕明

アゴラ

エジプトの政情が極めて不安定になってきました。日本のメディアではどうも遠い国という扱いなのでしょうか、記事はやや簡素な気がしますが、北米では大きな扱い(例えばバンクーバーのローカル新聞でも一面トップ)となっています。確かに中東といえば大半の日本人にとってよく分からない、でもいつも戦争ばかりしているところ、と思われるでしょう。エジプトの今回の事態は世界の平和、社会秩序そして経済に大きな影響を及ぼします。そしてこの動きに固唾を呑んで見守っているのは案外中国のような気がします。


エジプトでは2011年から12年にかけての革命によりそれまでのムバラク大統領の独裁から民主化に移行しました。ところが、そのトップの座に着いたモルシ大統領の治世は不人気となり、結果として軍事クーデターが起こり、大統領は解任されました。その政府軍はモルシ派の激しいデモを力で押さえつける行為に発展し、多数の犠牲者を出しつつあります。国際社会はこの展開に大きな懸念を表明しています。アメリカは軍事政権を一応支持していますが、その支援には法的疑問もあり、オバマ大統領も難しい判断を迫られています。

というのは仮にアメリカが軍事政権を支援しなければ今は圧倒的な力でモルシ派を押さえつけている軍事政権もそれが難しくなり、モルシ派の勢力盛り返しに繋がる可能性があります。そうなればエジプトは混沌とした社会に突入してしまうのであります。これはとりもなおさず、地政学的不安を増長するのみならず、原油の価格上昇などを通じて世界の経済に大きな影を落とすことになるのです。

事実、今日のニューヨーク市場などでは石油はバレル当たり107ドル台と高値圏にあるのみならず、金が暴騰し、1360ドル台まで回復しています。市場の解説は「セーフヘイブンへのシフト」ということで、為替もただでさえ円が買われやすい環境にある中、これをあと押しする形となります。

石油についてはエジプトは産油しないもののスエズ運河の通行にリスクという見方が石油価格を引き上げているというのが一般的な見方であります。

エジプト国民の9割がイスラム教であるなか、この内乱は収まるきっかけを作るのが難しくなってきています。疲弊するまで戦うとなればこの影響が他の中東諸国にも波及しないとも限らず、実に大きな不安材料になるのです。

ところで何故私は中国がこの問題に興味を示すだろうと考えているかといえば、仮に中国共産党が立ち行かなくなった場合に国内をどう統治するのか、という想定をするにおいて重要な参考になるのではないかと考えているからです。個人的にはイスラム教は比較的平等な社会を築くという点において共産主義と繋がる発想があるのではないでしょうか? ならば、国民は一定の抑圧された社会でうまくワークしていると見ています。そのバランスが崩れ、国内の支配体制が揺らいだとき、社会はしばし騒乱しやすくなります。ソ連が崩壊した時は多くの国が独立しましたが、第一期プーチン政権は国内経済を立て直し、一種の独裁政権を作り上げたため一定の収まりがありました。そうでない場合には国を割る結果すら起こりうるでしょう。中国の場合には多くの民族という複雑な問題を抱えていますし、香港、台湾との距離感も政治的にコントロールせざるを得ない状況になっています。

エジプトの場合、この状況を治めるには歴史に残るぐらいの英雄が治世する必要がありそうです。各種ニュースを見ている限りこの英雄候補者は少ない、とされています。その点からすれば国際社会はエジプトに平和維持軍を投入することもありえるかもしれません。少なくともこの動揺が他国へ波及する前に行動に移す必要があると思いますが、アメリカもいまや中東政策にはやや腰が引けている感じがします。欧州も経済の最悪期からようやく立ち直りかけている最中、出来れば構いたくないという気持ちがあるように見えます。

ある意味、とてもじれったい状況が当面は続くのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。