新田哲史氏が書かれた『産経の盲従的「甲子園」礼賛記事を球団…いや糾弾する』を興味深く拝見した。批判の対象となった産経・出崎敦史氏の記事も読んだが、確かに出来が悪い。出崎氏の主張は、要するに末尾にある「ネットの批判とは関係なく、高校野球は今も昔も変わらずに続く。それでいいと思う。」だけだ。ネットでの批判が出崎氏の記事のきっかけとなったのは間違いないが、他から批判が来ても、「高校野球は今も昔も変わらずに続く。」と出崎氏は主張するだろう。
確かに伝統は重要だが、伝統の先に未来があるとは限らない。出崎氏に欠けているのは、未来に向けた発展のシナリオである。高校野球だけではなく、スポーツ界には発展のシナリオが見えない事例が散見される。柔道にはすでに批判が集中している。だれも批判はしていないが、ぼくには、午後6時に大相撲が打ち出しを迎える理由もさっぱりわからない。相撲界の伝統だろうが、午後9時にずらせば、仕事上がりのビジネスマンも見物に来るに違いない。
伝統を重視しても競技は衰退する恐れがある。日本高等学校野球連盟の統計によれば、硬式野球での加盟校数は2005年の4253校がピークで、2013年には4048校まで減少している。軟式野球では、1984年の702校が466校まで減った。日本中学体育連盟の統計では、柔道の加盟生徒数は、男子の場合2002年度には42386名だったのが2012年度には29473名に、女子は12491名が8552名に、10年間で激減している。大相撲で観客動員が不振なことはよく知られている。
高校野球の前身である全国中等学校優勝野球大会は、第1回大会が1915年であった。講道館の創設は1882年だという。財団法人大日本相撲協会は1925年に誕生した。100年の伝統の中で、三つのスポーツとも制度疲労が起きているのは間違いない。ネットを含めて広く世の中の声を聴き、改革に向けて進むのが常道のはずだが、関係者は「高校野球は今も昔も変わらずに続く。それでいいと思う。」のだろうね。
山田肇 -東洋大学経済学部-