小川の上の納涼原発 --- ヨハネス 山城

アゴラ

そろそろワシの夏休みも終わりや。最高気温41度やそうやが、体が慣れたせいか、7月ごろより暑さを感じへん。朝、日陰を歩いたら、秋の気配さえ感じるがな。

大文字も終わって、京都の残暑をたっぷり味わいたいてな物好き……やない、粋な人にアドバイスしよう。観光業者や友人から「川床(ゆか)」に誘われたら、場所に気をつけることや。鞍馬や貴船なんかの山の中ならええ。好き嫌いは分かれるが、流しそうめんなんか風情があって、ええもんやと思う。


そやけど、鴨川みたいな街中の川床には何のメリットもない。冷房はおろか扇風機もなかった時代ならともかく、今時、生ぬるい川風(ならまだええが、ときに熱風)を浴びながら、すし詰めの川床でアホみたいな値段の懐石をいただくのが好きや、という人以外には、あまりお勧めできん。

話は原発事故に飛ぶ。福島第一の汚染水問題、日量1000トンの地下水が、発電所の敷地内に流れ込み、そのうち300トンが汚染水となって海に出ているという話や。

1日に1000トンということは、毎秒10Kg。つまり、ちょっとした小川が敷地の下を流れているということや。少なくとも、川床をやるのには十分な量やで。涼しいてええがな、流しそうめんでもしましょか、と言うている場合やない。

汚染云々の話はとりあえず置くとしても、この小川、バカにならん存在やと思う。たとえば、水量の1万分の1の土(水1リットルに耳かき数杯分の土)が流失しているとしても、毎日、土嚢10数個分の土が敷地から消えていることになる。

上流から持ち込まれる土砂もあるにせよ。敷地内の地下に、水路にそって空洞が出来ても何の不思議もない状況や。そんな場所の地上に、汚染水を満載したタンクを、何10年単位で並べておいて大丈夫なんやろか。ちょっとした地震がおこったら、液状化の心配までせなならんがな。

だからと言って、下手にくみ上げをしたら、地盤沈下がおこる。戦後、各都市でおこった地盤沈下の主な原因は、工業用途の地下水のくみ上げやったことを思い出してみ。

難儀なことに、原子炉建屋に自由に人間が出入り出来るのは、何10年も先のことや。吹っ飛んだ建屋の代わりの仮屋根を付けるのにも大騒動しているわけやから、地盤改良をして、敷地全体を安定させる工事など、とても無理な話やろ。第一、費用はどこから出るんや。

今後、建物の老朽化と地盤の軟弱化が同時進行したらどうなるか、あまり楽観せんほうがええことは確かや。三陸地方は、数十年に一回津波が来ることなんぞ、心配してる余裕すらないがな。

もうひとつの問題は、この小川がいつできたかということや。まさか、こんなもんの上にわざわざ原発を作るとは思えんし、もしあれば、あらかじめバイパスの導水路を作るはずや。そやから、3.11で発電所の下に地下水路が出来たと考えるのが妥当やろ。

実際、神戸の震災のときも、マンションの地下に大量の湧き水が出たり、逆に井戸が涸れたり、地下水脈の変動はあちこちで観察されていた。

こういう大規模な変化が地震時に一瞬で起こったとすれば、地殻変動しか考えられへん。地下水が移動できる何らかの隙間が敷地内に出来たということや。それを活断層と呼ぶのか、地滑りと呼ぶのかは、博物学的な意味しかない。

原発を作るような選びに選んだ地盤ですら、一瞬でこういうことがおこるのが、地震国日本なんやという、面倒くさい結論が見えてくる。

現在、活断層をまたぐ原発は作れないことになっているから、既存の原発敷地内の断層にカツを乗せるか乗せないかで、大の大人が暑いさなかに喧嘩してはる。悪いけど、あまり意味のある議論やとは思えん。

地下10m以上に渡って、小規模なものまで含めて断層を全て見つけて年代を確定するなど、とても無理な相談やろうし、何もないところに、いきなりバリっと断層(や地滑り)ができることもある。

そやから、今後、日本のような地震国で原子炉を新設するなら、発想を変えて、地下で少々の断層運動があったとしても、原子炉本体に致命的な影響を与えないようが構造の研究が重要なんやないやろか。

発電所用ではないが、こういう研究は人工地盤という形で、神戸の震災のころから進められてきた。原子炉に応用するなら、わざと軟弱にした地盤の上に浮かぶ原子力船というイメージやな。こういう方向性はアリやと思う。

将来、原発を本気で運転する気があるなら、「カツ断層教」の神学論争をしている手間で、少々の地盤変状(断層運動や地滑り)にも耐えられる人工地盤の研究を進めた方が、よほど値打ちがあると思うんやがのう。

今日はこれぐらいにしといたるわ。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト