エイベックス創業者の松浦勝人氏が日本は富裕層に優しくない、という発言をフェイスブックにしたことが話題になっていることをインターネットで目にしました。興味深かったので記事を読みましたが、私もぜひともコメントをしたくなりましたので今日はこの話題にしましょう。
同氏はエイベックスから役員報酬で4億5000万円、自社株の配当収入が2億円の約6億5000万円が年収との事です。役員報酬は約半分ぐらいの税金、配当収入は20%の税金で税引き後は3億8500万円が自分の手元に残るとします。悪くないですよね。うらやましいですよね。氏のもう一つの不満は相続税で、家なり預貯金なりの資産は家族が将来引き継ぐのだろうと思いますが、その際にはまた、55%の税金がかかるのであります。見方によっては確かに二重課税という発想もあります。まさに財を成しても三代でなくなる、とはこのことなのでしょう。
日本が富裕層に優しくない、というのはいまさら何を、という気もします。日本は歴史的に重い年貢という負担を通じて豪族が吸い上げる仕組みが何百年も続いています。理由は民の力を削ぐためであります。江戸時代、参勤交代をしいたのも藩の財政を厳しくし、財力による地方大名の不穏な動きを抑えるためでありました。つまり、江戸の300年にわたる平和とは徳川という安定政権による財のコントロールであったといっても過言ではありません。
ちなみに財力がある者を抑えこむという発想は治世する鉄則の一つであり、最近ではロシアのプーチン氏がそのやり方で反対勢力が出にくくしたことが記憶に新しいと思います。
日本のこの発想は明治時代以降も続きます。そして日本が世界でもっとも進んだ社会主義国とも揶揄され、国民皆総中流という時代がやってきます。これは下の層を引き上げるのみならず、上を作らないともいえるわけで結果として80年代のバブル期にも日本の社長さんは平社員よりちょっぴり金持ち、と言われたわけであります。
ところが、失われた20年を経て日本が復活ののろしを上げたきっかけはアメリカ式経営であり、MBAあり功績に伴う高所得ありストックオプションありで、有能な人間は俺も、私もと起業し、21世紀型成金が多数生まれたのであります。
松浦氏のつぶやきはまさにここに来て何故、これほど肩身が狭い思いをせねばならないのだろう、ということでしょう。一時期流行った「富裕層の海外流出」も国税の目が一層厳しくなり、今年から海外資産のディスクロージャーも始まります。(私は武富士の長男への贈与税事件《国が敗訴し、2000億円が還付された事件》が直接的なきっかけではないかとみています。)こうなれば、日本をあきらめない限り、節税は実に厳しいハードルとなってきたのです。
エイベックスの件に戻ると節税を考えるならば私ならば役員報酬を減らし、配当収入を増やす手段が取れないか検討します。配当は普通株というのは日本の特徴ですが、北米では優先株がやたら多く、配当がうまく出来るようになっていると認識しています。日本においてそれが制約されているのか知りませんが、出来るならそうすれば税率をどんと下げることが可能かもしれません。
相続税については私も松浦氏と同様、どうにかならないかと考えています。仮に日本に相続税率が極端に低かったり、カナダなどに見られるように相続税がない国の場合、消費へのプラスの影響は大きくなります。北米では一般的に富裕層は投資や寄付を通じて財産が社会に還流することが多いため、日本のように富裕層なのに財布を握り締めて離さない、ということは少ないと思います。日本も相続税が軽くなればそのような動きもあるのかも知れません。
日本の税政策は歴史的に富裕層を作らないという発想があるゆえに我々が生きているぐらいの間では大きくは変わらないだろう、とみています。よって、日本の総需要が足りないと嘆く抜本的問題も解決しないし、財政も再建するのは困難であります。日本は変わろうとしないところに最大のネックがあります。
もちろん、相続税の取立てが厳しいことでメリットもあります。それは富裕層のひ孫ややしゃご(玄孫)ぐらいになれば「おじいさんはすごい人だった」というだけで何の経済的メリットもないため、一生懸命働かざるを得ない、ということであります。つまり、日本人が皆と力をあわせて努力するという原点に立ち返ることが出来る、ともいえるでしょう。
日本は少なくとも清貧という道を選んでいるのですから富裕層もせいぜい、子供と孫ぐらいにいい思いをさせ、残すよりも使い切る、という発想であきらめるほうがいいのかもしれません。とはいってもエイベックの松浦氏のように6億5000万円もあると私にはちょっと想像できない世界ですが。(笑)
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。