前回触れた派遣法の見直しが実施されれば、受け入れ可能期間の上限を仕事ごとから個人ごとに切り替えるわけだから、良くも悪くも3年ごとの使い捨てサイクルが定着することになる。
企業にとっては派遣労働を長く活用できるというメリットはあるが、当の派遣労働者からすれば正規雇用との格差是正なんて夢のまた夢だ(まあそれでも雇用自体は増えるだろうからマイナスではないが)。
なぜ派遣労働者は同じ職場で3年以上働くことが許されないのか。厚労省お抱え識者のレポート等を読むに、彼らの頭の中では「新卒で入った会社で長期間働くことこそが人としてあるべき正しい働き方」であり、その美風をよこしまな経営者たちから守るために、3年未満にかぎって派遣労働を許そうということらしい。
というわけで、新卒時に「人としてあるべき正しい働き方」のレールに乗れなかった人や、3年ごとに職を追われる派遣さんは、文句があるなら彼らに言うといい。
もちろん、筆者自身はまったく上記のスタンスには賛成しない。現在の派遣労働は抜本的な見直しが必要だと思っている。
では、どのように見直すべきか。答えははっきりしている。正規雇用との間で、雇用調整や賃金といった点での格差を解消することだ(フォローしておくが、全員同じ賃金にしろというわけではなく、同じ賃金体系や雇用ルールの上で競争させろということだ。競争の結果として生じる格差は正しい)。
そのための処方箋も明らかで、解雇ルールを明文化しつつ同一労働同一賃金の基本法を作ればいい。
意外に知られていないが、解雇規制緩和にもっとも反対しているのは人材派遣業界だ。本来、派遣は時給でみるとかなり割高で、企業としては出来れば使いたくないのが本音だが、いっぺん直接雇用してしまうとさまざまなリスクが発生してしまうので、間に派遣会社をかませてそれらを回避することになる。
筆者自身、一度そういった業界団体の幹部の前で「派遣規制強化には反対だが、最終的に解雇ルールを明文化するのが理想だ」と言ったら、露骨に嫌な顔をされた経験がある。派遣手数料=怖い方々が来ないようにするためのみかじめ料と考えるとわかりやすいだろう。
派遣会社としては、従来通り国は大企業に終身雇用を命じつつ、左翼や日弁連は大企業のアラを探しつつ、びびった大企業は派遣会社にみかじめ料を払い続けるというサイクルが永遠に続くことが理想であるはずだ。
仮に金銭解雇できるようになれば、少なくとも大企業は割高な派遣会社なんて使わず、自分たちで直接雇用する。採用コストを浮かすため最初だけ派遣会社経由で受け入れたとしても、一定期間経過後に直接雇用に切り替えるだろう。もちろん、派遣労働者はみかじめ料をピンハネされることなく受け取れることになる。それが、筆者の考える本来のあるべき姿だ。
たまに厚労省系の御用学者で「ヨーロッパの派遣労働者は一定期間経過後に正社員になるのが普通だ、だから日本でもそれを義務化すべきだ」なんて言う人間もいるが、現実を知らない空理空論に過ぎない。
なぜ日本企業が派遣労働に頼らざるをえないのか。それこそが問題の本質であり、そこにメスを入れないいかなる“改革”も実を結ばないというのが、今回の規制見直しから得られる唯一の教訓だ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年8月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。