派遣労働者を3年で使い捨てる派遣法改正案

池田 信夫

労働者派遣法の見直しを議論している厚生労働省の研究会は、派遣労働者の職種を26種に制限していた規制を廃止し、どんな仕事でも企業が無期限に派遣労働者を雇えるようにする最終報告をまとめた。これは企業にとっては便利だが、今後はすべての派遣労働者を3年で交替させなければならない。今までは無期限に働くことのできたSE・翻訳・放送など26業種の専門職も、3年でクビになるのだ。


なぜこういう倒錯した規制が行なわれるのだろうか。厚労省を代弁する東京新聞は、派遣の規制を緩和すると「企業がコスト抑制のため、正社員の担う恒常的な業務まで派遣に置き換えてしまう」と書いているが、これは逆だ。Garbagenewsでも書いているように、派遣を規制すると正社員が増えるのではなく、何も身分保証のないパート・アルバイトが増えるのだ。


労働基準法では、いまだに3年を超える有期雇用契約が認められず、5年を超えて雇うと正社員にしなければならない。つまり非正社員は3年+2年で使い捨てろというのが厚労省の思想なのだ。

有期雇用契約の制限を廃止すべきだという提言は、以前から多くの経済学者がしているが、厚労省は聞く耳をもたない。彼らにとっては正社員だけが正しい雇用形態で、期限なしに雇用されていながら社会保険料を払わない非正社員は敵なのだ。こういう規制が結果的には非正社員の比率を38%にまで高め、雇用規制を空洞化させ、正社員との格差を拡大している。

日本経済の最大の問題は、デフレでも金融緩和でもない。このような世界にも類をみない正社員だけを特権化する身分差別が労働市場を硬直化させ、新しいビジネスへの人材の移動を阻んでいることだ。自民党政権が、経営側の「使いやすさ」だけを改善して派遣労働者を3年で使い捨てようとするのは、安倍政権の「第3の矢」が誰のためのものかをよく示している。