福利厚生の「囲い込み」から会社と社員の相思相愛へ --- 岡本 裕明

アゴラ

本田直之さんの最新著書『新しい働き方』には国内外のさまざまな新しい働き方をオファーする企業の例が出ています。それをテーマとした彼の講演会に於いてファシリテーターを勤めさせて頂いたのですが、会場に「昼食や飲み物が無料で提供される会社を皆さんは知っていますか?」との問いかけに手はほとんど上がりませんでした。講演会では話題に触れませんでしたが、9時から3時までの6時間勤務の会社があるのはご存知でしょうか? しかも日本の上場会社で多くの皆さんが知っている会社です。


私の事務所が入居するオフィスビルにもパック入りドリンクやら果物やらパンなどの食材が毎日配達される会社が複数あります。カナダ人でも「この事務所ビルにカフェは入っていなかったよな」と思っている方も多いでしょう。これらの会社では社員は無料でそれらの食べ物を頂戴することが出来ます。

では、それがうらやましくて、そのような会社に入りたいでしょうか?
よく事情を知らない人は飛びつくに違いありません。「食費浮くじゃん」

日本の会社には昼食無料というより社員食堂というものが普及しています。一般価格よりかなり安くしかもタニタ食堂ならばヘルシーさを提供してもらえます。ではこの違いは何でしょうか?

ずばり、日本の社員食堂は福利厚生の一環で事務所の無料ランチは働く効率の追求と囲い込みというまったく違う目的があるのではないでしょうか?

日本の企業は歴史的に給与は低めですが、福利厚生が充実しているとされています。日本の一般社員の額面上の給与水準は世界的にみてもかなり高いのですが、労働時間の長さを考えるとあれっと言うほど低いのです。私が日本でサラリーマンをしていたとき、27歳の時点で非組合員にさせられてしまい基本給は低いのに残業手当はつかず、時給換算をするとアルバイトの人と変わらないという状態でした。

しかし、会社にはてんこ盛りの福利厚生と手当がありました。以前書いたと思いますが、自家用車を社用に使って2年で車代を回収するとか、海外出張にはビジネスクラスで手厚い出張手当、更には自社所有の高級ホテルに高待遇で宿泊できました。会社所有の温泉や保養所のみならず、営業関係で廻ってくるスポーツジムの優待券に各種無料券、更に海外勤務になれば海外手当に給与のネット保証(手取りが本邦と一緒になるようにすること)などまだまだいくらでもあるわけです。

本田直之氏の「新しい働き方」に紹介されている企業が提供しているオファーを福利厚生という点で見ると大きなショックとなるはずです。人の能力を最大限発揮するための効率性を高める手段であるからです。当然、そういう企業で働く人々は仕事が好きで遊びとの融合も上手なのだろうと思います。何時から何時が仕事でいつからいつまでが休みという区切りはなく一日の中で仕事と遊び、プライベートが混在しているスタイルなのです。

私の生活もまさに時間で区切れません。土曜日も日曜日も必ず何らかの仕事はありますし、平日でも夜明けと共に仕事することもあれば夜半にたたき起こされることもあるのです。

ところでメキシコなどのリゾートにはオールインクルーシブと称されるパッケージ旅行が多くみられます。1週間滞在の間、ホテル内の食事、飲み物、アクティビティなどすべて無料というお手軽なものです。私も昔よく行きましたが、ホテルに着くなり財布をセーフティボックスに入れれば次にそれを出すのはチェックアウトのときだったこともあります。それはホテルが顧客を囲い込んでいて一日を効率的に遊ばせ、リラックスさせる仕組みが備わっているともいえます。

「新しい働き方」に紹介されている企業はこのオールインクルーシブのパック旅行を仕事に読み替えたものと考えられても良いのではないでしょうか? それはある意味、働く人が同僚と高いレベルでの意見交換をしながら自分や会社の成長をしていくことなのです。

仕事の仕方は時代とともに明らかに変わってきています。私は雇われるという受動的意味合いから企業と社員が相思相愛の関係になっていくのではないかと思います。そしてそういう変化を先取りした人と会社が幸せをつかむような気がしております。

本田直之氏の講演にはインド版巨人の星のディレクター、古賀義章氏も飛び入り参加して頂き、多くの皆様にお越しいただきました。ありがとうございました。

では、今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。