小幡氏もいうように、消費税をめぐってリフレ派=ポピュリストと常識的なハト派の違いが鮮明に出てきたようだ。
増税の1年延期を主張する浜田宏一氏は、1年後の対応について「(その時点で)景気が上向いていなくても、断固として決行する」と述べたが、これは経済的にナンセンスだ。今年4~6月期の年率2.6%という成長率は、アベノミクスの偽薬効果で潜在成長率0.5%を大きく上回る絶好のチャンスで、これを逃がすと状況は悪化する。そのとき政権が「決行」する保証がどこにあるのか。浜田氏の言葉は、何の保証にもならない。
彼のように今年は「来年やる」といい、来年になったら「状況が変わった」と言い出したら、永遠に増税はできない。このように実行する担保のない約束をcheap talkという。増税を法令で決めるのは、政府を拘束して誰もがいやがる増税を実行するコミットメントなのだ。ところが日本では法の支配が機能していないので、官僚も法令をコミットメントだと思わず、原発停止のように行政指導で曲げてしまう。浜田氏は「優柔不断が日本経済に多少のもやもやを及ぼしている」というが、彼の発言こそ優柔不断の典型だ。
これに対して、リフレ派と呼ばれることを拒否する伊藤隆敏氏の有識者会合での発表は、筋の通ったものだ。彼は上のような図を出して1998年以降の不況の原因は消費増税ではないことを説明し、今回の増税の数値シミュレーションもやった上で、その悪影響は小さく、今はタイミングもよいという結論を出している。
もっと重要なのは、伊藤氏もいうように「増税見送りの代替案はなにか? その場合のGDP成長率は改善するのか? 本当に立法化できるのか?」という問題だ。ここで見送ると、また与野党からいろいろな反対論が噴出してくるだろう。
- 来年やめると、いつから増税を始めるのか?
- 自民党内がまとまるのか?
- 国会の議論が振り出しに戻るのではないか?
- 1%ずつ5年間:税務コストが大きく税収が不足する
- 毎年1%を5年間続けられる保証はない(選挙のある2016年は停止?)
こうした状況を想定すると、代替案がまとまらないリスクが大きい。外人投資家の信頼を失い、円高、株安、債券安(金利上昇)の可能性が高い。外人のポジションは、円のショート、株のロングが大半だからである。伊藤氏もいうように、第一の矢の成功の原因は首相の強いリーダーシップだったが、ここで消費税増税も決断できないと、アベノミクスは終わってしまうだろう。