なぜオバマ大統領はシリアにそこまで固執するのか、その理由は結局本人のためのような気がします。言い出してしまい、引っ込みがつかない、そんな感じに見えないでしょうか?
化学兵器を使ったとされるシリアアサド政権はその使用の真偽はいまだにはっきりしていません。しかしながらアメリカはアサド政権側が反政府勢力にサリンを使ったとし、多くの民間人を巻き込んだと断定しています。長年の友、イギリスも始めは同調姿勢だったのですが、部分空爆に対して議会での承認がとれず、キャメロン首相はオバマ大統領に「ごめんなさい、でも応援しているよ」のエールを送っています。
世論は化学兵器使用の有無よりも戦争反対というボイスが大きいのだろうと思います。特にその声はヨーロッパで高くなっていますが理由はやはり、二回の大戦を通じて国土が焦土と化したことが国民の歴史認識に強く焼きついているのだろうと思います。その点、アメリカはいまだ本土が近代戦争に巻き込まれたことがないために強気の姿勢が元来あるのでしょう。
安倍首相に電話したのも仁義を切るためのように見受けられます。それはアメリカ議会がこの部分攻撃を承認する可能性が高いということなのかもしれません。事実、オバマ大統領は野党共和党のマケイン、グラハム上院議員を呼び、共和党の説得工作を行っており、それを受けてベイナー下院議長が取りまとめる方向のようです。そして9日から行われる議会でその決議が行われる公算なのです。ただ、ワシントンポストとABCの週末の世論調査では6割のアメリカ国民がその支持政党にかかわりなく反対しており、議会が国民の声を代表するのか、このあたりが大きな疑問として残ります。
仮に議会承認が取れなければアメリカのシリアへの関与は薄くなるかもしれませんが、同時にオバマ大統領の信任問題に発展しかねません。オバマ大統領の株が唯一上がる方法は議会承認を経て、部分攻撃を行い、アサド政権を倒し、中東に平和をもたらすという完璧なストーリーが成り立つ場合に絞り込まれる可能性があるのではないでしょうか?
では、なぜそんな賭けに出たか、といえば賭けに出たのではなく、計算違いで世論は思った以上に戦争に対して逆風だったという感じがします。特にアメリカの場合、イラク問題で完全に失敗している上にノーベル平和賞を貰ったオバマ大統領ならばその選択肢はないだろうという安心感を覆したともいえるのではないでしょうか?
一方、欧米主要国を含む11カ国で成り立つシリアの反体制派を側面から支援する「シリアの友人」はその対策を協議するためにローマで会議を開くとされていましたが、もともとシリア攻撃に反対していたイタリア外務省はそんな会議をローマでやる予定はない、とあっさり否定しています。
つまり、今回のシリア問題は欧米諸国の足並みはほとんどそろっていないのです。
オバマ大統領に考えがあってのことだとしたらアメリカのリポジショニングなのかもしれません。強いアメリカは経済的な回復、エネルギーの自立を達成しつつあります。次は世界政治を再コントロールする地位を固める方策だとしたら第二期の大統領政権としては大きく踏み出したということになります。折りしも量的金融緩和からの離脱問題、債務上限問題を抱え、外交的にはロシアとの距離感が強くなり、中国との関係もある意味、興味深いバランスを保っています。
しかし、世界の世論はアメリカを中心に回ることにやや疲れてきているようにも思えます。かつてのアメリカ中心の時代を取り戻す戦略が果たして正しいのか、どうも時代の流れに逆行している気もいたします。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年9月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。