NISAに踊っているのは、個人投資家より金融機関、メディア、出版社 --- 内藤 忍

アゴラ

NISA(ニーサ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?最近、新聞やテレビで金融機関が積極的に広告しています。また、マネー誌や増刊ムック、そして書籍などNISAを特集した出版物もこれから大量に出版されると思います。かくいう私も数社から取材を受けて、コメントを書かせて頂きました。


NISAとは、来年から始まる少額投資非課税制度で、毎年元本100万円までの投資が対象になります。確かに年間の投資金額が100万円までの人にとっては、絶対に使った方が良い制度です。これから毎月3万円、5万円といった金額で積立をしていくきっかけにするには、最適な仕組みです。

しかし、私自身はNISAの口座を開設するつもりは今のところありません。メリットとデメリットを比較すると、既に投資を始めている人にとっては、絶対に活用すべき制度とは思えないからです。

既に投資をしている人にとっての問題は、NISAで投資をした場合、利益に対しては非課税になるメリットはあっても、損失が発生した場合、他の口座との損益通算ができないことです。

200万円の金融資産を100万円をNISAで、100万円を一般口座で、運用している人がいたとします。すると、4つのケースが考えられます。

ケース1 どちらも値上がり
例えば、NISAが120万円になって、一般口座も120万円
この場合は、NISAは非課税、一般口座の利益20万円に4万円課税です

ケース2 どちらも値下がり
例えば、NISAが80万円になって、一般口座も80万円
この場合はどちらも課税なしです

ケース3 NISAは値上がり、一般口座は値下がり
例えば、NISAが120万円になって、一般口座は80万円
この場合はNISAは非課税、一般口座は課税なし

ケース4 NISAは値下がり、一般口座は値上がり
例えば、NISAが80万円、一般口座が120万円
この場合は一般口座の利益20万円に4万円課税です

(実際の税率には端数が付きます)

このように考えると、ケース1、ケース3ではNISAのメリットがありますが、ケース4では逆にデメリットが発生することがわかります。ケース4でNISAを使わないで、200万円がすべて一般口座のままだったら、トータルの値上がりはゼロで課税されないからです。

ケース4にならないようにするため、儲かる投資はNISA、儲からない投資は一般口座と使い分けられればベストですが、それがわかれば投資で損することはありません(笑)。

このように考えていくと、NISA口座を開設するかどうかは、投資をしていない人、している人で次のように整理できます。

1.これから投資を始める人で、年間の投資額が100万円までの人は絶対に開設すべき(ただしNISA口座はマネックス証券のような、低コスト運用ができるネット証券で)

2.既に投資をしている人は、上記のメリット・デメリットを比較し、手間をかけて開設する価値があると判断したら活用すべき

これがNISAに対する私の考え方です(違うご意見あれば教えてください)。

NISAに熱くなっているのは一般投資家より、むしろ新規顧客を囲いこみたい金融機関、その広告収入を当てにしているメディア、そしてNISA関連書籍を制作している出版社と著者の方に見えます(笑)。

このブログを読んでいる方の大半は既に投資を始めている人でしょうから、NISAに対しては良く考えて冷静に対応した方が良いでしょう。

むしろ考えるべきは、今持っている株式や投信で利益が出ているものをいつ売るかです。年内の売却なら利益に対して10%ですが、来年売却すると20%課税になるからです。これに気がついた個人投資家が年末にかけて益出し取引に殺到して、株式市場が下落しないか。そちらの方が個人的には心配です。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。