成長を続けてきた回転寿司業界が今、岐路に立っている。
回転寿司業界は今、スシロー、カッパ寿司、無添くら寿司の3強時代。この3強が得意とする「低価格(100円)」「郊外の大型店」という成功パターンに陰りが出ている。
円安の影響もあり、輸入に頼る魚の仕入価格が高騰している。一方で、出店のための優良候補地も少なくなってきたからだ。
そこで、カッパ寿司が平日88円セール、逆にスシローが189円の高級メニューを導入するなど、価格政策見直しにトライしている。また、郊外大型店路線から、都心に中型・小型店への展開も展開しはじめている。
もともと回転寿司は、コスト管理・品質管理が生命線を握っている。「時価」「おまかせ」に代表される、職人の技と勘に頼ってきた寿司屋に、「管理」のしくみを徹底させたことが成功要因といえる。職人からパート・アルバイトに主役を交代させることで、100円(税込105円)という低価格を実現してきた。
中でも、重要なコストは二つ。仕入原価と人件費だ。
売上高に対して、概ね
・仕入原価率50%(売上の1/2)
・人件費比率25%(売上の1/4)
通常、飲食業の原価率は25~30%なので、約2倍。単純に逆算すると、1皿180円から200円に売価設定すべき素材を100円で販売しているのだから、多くの人が感じる「お得感」は正しいと言える。
仕入原価率を維持するため、世界の果てまで魚の仕入先を探し、時間帯別に売れ筋を予測するシステムを導入することなどでロス率を極限まで落とす。人件費のカギは、パート・アルバイトだ。
郊外大型店の場合、スタッフ数は50名程度から多い店舗だと100名にもなる。このうち正社員の人数は、どれくらいだと思われるだろうか。もちろん店舗にもよるが、
答えは、2名
である。
店長1名と次期店長候補1名という2名の正社員が、50~100名のパート・アルバイトスタッフを束ねている。次期店長候補者が新人であるケースも多く、店長とベテランアルバイトが店舗運営の中心的役割を担う。これを支えるため、寿司握り機などの機械化、職人技を必要とないネタの加工・下準備、業務のマニュアル化なども徹底している。
このように、並の製造業以上のコスト管理力が、人件費比率25%を実現している。
一皿あたり人件費25円
に抑えられなければ、100円は維持できないということだ。
それを高いレベルで実現したのが、3強企業ということになる。
しかし、円高に加え、パート・アルバイト時給の上昇傾向、来年以降に予定される消費税アップ、など経営環境は厳しさが増す。
回転寿司業界が、敷居の高かった寿司屋を、家族で気軽に食べられる「庶民の味」に戻した貢献は大きい。
強烈な逆風の中、なんとか「庶民の味」を守ってほしい。
長年の100円から110円、今では120円に定着した缶コーヒーのように、消費者の価格許容度が少しでも緩んでくれば。それが、自分たちの食べる回転寿司の料理品質を維持することにもつながる。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”