日本では少子高齢化が進み、高齢者人口が総人口に占める割合は25.0%となり、今後の労働力人口は減少することが予想され、年金等による社会保障費は財政を圧迫している。老齢厚生年金の支給開始年齢は制度発足当時は55歳であったものの、今日では定額部分は生年月日によって65歳まで引き上げられ、比例報酬部分の支給年齢も2025年までに段階的に65歳に引き上げられることとなっている。
しかし、仕事を退職する年齢と年金支給年齢は必ずしも一致しないため、定年退職後に無収入かつ無年金となる者が出てくる。そのため高年齢者の雇用の確保のために高年齢者雇用安定法という立法措置がなされている。
高年齢者雇用安定法は、65歳未満定年を定める事業主に対し、
a:当該定年制度の廃止
b:当該定年の引き上げ
c:継続雇用制度の導入
の3つの措置のいずれかを講じるよう義務付けている。本稿では3つの措置のそれぞれの問題点を挙げる。
まずaの定年の廃止についてだが、定年制度がある場合、当該定年齢に達すれば労働契約は終了する。年齢によって労働者を退職させる定年制度はアメリカでは年齢差別にあたるとして禁止されており、日本でも定年制度に対する疑問の声はある。
しかし、日本には年齢差別禁止法はなく、判例でも定年制について、企業の人事刷新など企業運営の適正化のために行われるものであり、一般的に不合理な制度とはいえないとしている。また、解雇が比較的容易に行えるアメリカと違い、比較的厳しい解雇規制が日本には存在する。定年制度を廃止した場合、労働者の死亡か辞職(合意退職含む)以外で労働契約を終了するには解雇によるしかなくなるが、それは容易ではない。
次にbの定年の引き上げだが、定年を引き上げると労働者1人あたりの生涯賃金は上がり企業の人件費コストは増える。そのため企業は人件費を抑えるため賃金水準全体を下げるだろう。働く年数は増えるが、もらえる総賃金は変わらないといった事態になる恐れがある。
最後にcの継続雇用制度の導入であるが昨年の改正により話題にあがることが多いことだろう。高年齢者の雇用を確保するための法律である高年齢者雇用安定法は1994年の改正により、60歳を下回る定年の禁止及び65歳までの継続雇用の努力義務が導入され、その後、2004年の改正により65歳までの雇用確保について、努力義務から義務へとなったが、継続雇用の対象者は労使協定により限定することができていた。
しかし、昨年改正され、今年の4月1日から施行された改正高年齢者雇用安定法では、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは廃止され、希望する労働者全員を継続雇用制度の対象とすることが義務付けられた。今までは健康状態、出勤率、業績評価等を基準に対象者を選別できていたが、それができなくなったのである。これにより人件費コストは増え、能力の低い労働者を継続雇用することによる労働生産性の低下などが懸念される。
仕事を退職した後、無収入かつ無年金の者が出るのは好ましいものではないのかもしれない。だが無収入かつ無年金の者は高齢者に限った話ではないし、高齢者の中には年金支給開始年齢まで雇用を維持しなくとも大丈夫な者もいるだろう。少子高齢化社会で高齢者の能力を活用といえば聞こえはいいが、それによって割を食う者も今後出てくるのではなかろうか。
太田 哲郎