「移民を受け入れる」というのは明らかに間違った考え方だ

松本 孝行

財界人を中心として「もはや日本は移民を受け入れなければ維持できない」という考え方が広まっています。少子高齢化が進む中、働き手も少なくなってしまうことが予想される中、介護人材の不足などが叫ばれています。そこで移民を受け入れようという話ナわけですが、そもそもこの考え方自体が間違っています。

海外の人達は日本が「どうぞ移民を受け入れているので来てください」と言えば、どっと押し寄せてくるわけではありません。移民する人たちが主体的に自分が移民する国を選ぶのです。


多くの国で移民が受け入れられ、労働力として利用されているのは御存知の通りです。あのドバイなどの中東地域の発展は海外から出稼ぎに来た労働者が中心となって建設現場などで働いています。つまり中東の発展は海外からの出稼ぎ移民無くしては達成できなかったというわけです。中東以外にもヨーロッパで言えばイタリアやドイツ、イギリス、そしてアメリカなどが受け入れています。

当然そこで色々な軋轢が生まれることもありますが、すでに移民無くしては産業が成り立たない国も多々あります。アメリカではすでにサービス産業や飲食業など、移民がいなければ成り立たないとされていますし、ドイツなども移民の人達が産廃関係などの3K仕事を請け負ってくれているから、産業が回っていると言われています。文化や宗教の問題はあっても、今や切り離せないようになっています。

一方の日本はと言うと移民がいなくても今は何とかやっています。しかし今後は確実に少子高齢化が進むために、労働力不足が確実に考えられます。ですから移民を受け入れる、という選択肢になるわけですがじゃあ移民を受け入れるとなった場合にアメリカのようにメキシコ人がすぐ来てくれるか?ドイツのようにトルコや東欧の人達がすぐ来てくれるか?というと、それは見通しが甘すぎるとしか言えません。

例えば日本の近くにはシンガポールがあります。上海があります。今後はタイやベトナムなどもどんどん成長していくでしょう。そんな中であえて日本にやってくる移民がどれほどいるでしょうか?たくさん稼ぎたいなら日本の様な終身雇用・年功序列の国よりも、可能性が高い中国沿岸部やシンガポールに行ったほうが稼げる可能性は高いでしょうから、稼ごうという意欲のある人は現在の日本を選ぶとは思えません。

また日本の現在の制度では移民受け入れがスムーズに進むとは思えません。数年前からフィリピン人の看護師および介護福祉士の受け入れを始めていましたが、現在までの5年間で約800人しか受け入れできていません(参照)。明らかに制度に不備があったことは間違いないですし、同じような方法で「日本語ができて日本の資格が取れる人材を移民として受け入れよう」なんて考えていたら、日本に来て働きたいという人は限りなく少なくなります。

どうにも移民受け入れを叫んでいる人たちの論を見ていると、あたかも日本が「どうぞ日本に来て下さい」と世界中に発信すれば、こぞって多くの移民がやってくるかのように発言しているような気がしますが、そんなに簡単なものではないでしょう。外国人観光客の数を見れば明らかですが、あれだけ力を入れて「日本に来てください!」と国や地方が力を入れてアピールしているのにもかかわらず、外国人訪問者数では日本は33位で年間1000万人すら訪問者を確保できていません(参照)。

特に日本が求めている高度人材については明らかに世界で不足していて取り合いになっています。日本を通り越してアメリカの大学やヨーロッパの大学で学び、エグゼクティブになる人達は日本にはなかなかやってきてくれません。それだけの環境が整っていませんし、アメリカのようにたくさんの報酬を得ることが難しい日本では尚更やってきてくれないでしょう。

移民受け入れ賛成派はそろそろどのようにして移民を受け入れるのか、その具体的な政策について議論すべき時に来ているのではないでしょうか。特に高度人材についてはこのままではやってくる見込みが少ないでしょう。今はまだ必要な移民の数を確保するための戦略も全く見えてきません。そんな状況では移民受け入れは成功するとは私には思えないのです。