増税の耐えられない重さ

池田 信夫

きのうの消費税引き上げをめぐる報道のものものしさは異様だった。原発が一片の法令もなしに違法に停止されているのに対して、消費税を8%に引き上げることは、昨年の三党合意で与野党が一致し、国会で可決された既定方針である。首相が何もいわなくても、自動的に来年4月から税率は上がる。


それがこんな大騒ぎになるのは、消費税引き上げ法の附則第18条

消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

という規定があるからだが、この「名目成長率3%程度」は三党合意で「努力目標」とされており、拘束力はない。「デフレ脱却」に至っては、増税で間違いなくインフレになる。1997年に3%から5%に上がったときは、CPIが1.7%上がった。今回も2%以上は上がるだろう。だから「増税でデフレ脱却ができなくなる」という首相の懸念は、デフレと不況を混同した勘違いだ。

この空騒ぎの最大の要因は、安倍氏の優柔不断である。彼が首相に就任したとき「消費税は三党合意で決まった通り引き上げる。それにともなう所要の措置は講じる」と言っておけば、マスコミが「上げる上げない」の報道を繰り返すこともなかったし、一部のポピュリストが既定方針をくつがえそうと騒ぐこともなかっただろう。選挙は当分なく、景気は「アベノミクス」の偽薬効果で上がっているのだから、今は増税の最大のチャンスである。

本質的な問題は増税するかどうかではなく、この程度の増税では財政破綻は避けられないということだ。毎年1兆円以上ふくらむ社会保障関係費を抑制し、年金会計を抜本的に見直すなどの対策を講じない限り、消費税は25%以上に上げなければならない、というのが多くの財政学者のコンセンサスである。ところが今回の増税は「景気対策」と「社会保障の拡大」に全部使ってしまうので、プライマリーバランスの赤字はほとんど改善しない。

つまり今回の増税は、財政再建の役に立たない老人のための現役世代の負担増の第一歩にすぎない。ニューズウィークにも書いたように、消費税率も所得税率も世界的にみて格段に低い日本で重税感が強く、これだけ増税が大騒ぎになるのは、このような受益と負担のゆがみが大きく、これから来る大増税の重さを納税者が感じ取っているからだ。彼らの直感は、10%への増税さえ明言しない首相に比べれば、はるかに健全である。