踏切事故に思う「勇気の代償」と「国民栄誉賞」

北村 隆司

プラットフォームに誤って滑り落ちてしまった女性を助けるべく、32トンもある車体を駅員の指示の元に乗客一丸となって傾け、救助したエピドードが写真と共に紹介され世界の驚嘆を招いた。http://news.infoseek.co.jp/article/sunday_4503961

日本人の『絆』の強さを示すこの美談が、日本人が阿吽の呼吸で共有する「お手本(ロール、モデル)」的な行動の結果である事は間違いない。


日本には、広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があった人や団体の栄誉を称える賞として「国民栄誉賞」がある。

その受賞者は第一回の 王選手に始まり 今年の大鵬、長嶋 、 松井各氏に至るまで一流人物が綺羅星の如く並んでいる。

然し、お手本になる言動を通じて国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えて来た一般庶民も少なくない。

今月一日にも、車列の先頭で踏切が開くのを待っていた時に踏切の中の男性を見つけた女性が車を降りて踏切の中に入り、男性を救おうとして自らの命を落とした痛ましい事件が起きた。

人を救おうとした「お手本」の代償が生命であった事は余りに大きいが、この女性の勇気が多くの人々に感動と希望を与えた事は、その後国民から寄せられた大きな感動の嵐からも理解できる。

2001年に、プラットホームから線路に転落した男性を救助しようとして線路に飛び降りた日本人カメラマンと韓国人青年が電車にはねられ死亡した「新大久保駅乗客転落事故」が大きく報道され「列車非常停止ボタン」の使用方法のPR強化やボタンそのものの増設で報われた。

又、2007年に東武東上線の踏切で女性を救おうとして電車にはねられ死亡した宮本邦彦警部の「ときわ台駅警察官列車殉職事故」では、宮本警部を称えた「誠の碑」が地元住民の手で建立され、全国からも多くの義捐金が寄せられたと言う。

「美談の陰に悲劇あり」とはよく言われる言葉だが、どのような事情であれ助けられた命は粗末にしてはならない筈だが、一過性の事件はどうしても風化が早い。

国土交通省のまとめによると、2008年から2012年度の過去5年間で発生した踏切事故は計1,598件、このうち死亡者は599人、負傷者も512人に上っている。

これが原発事故の結果であったら想像を超える騒ぎになったに違いないが、踏み切り事故の様にその気になれば救えた命が放置されているのも、一過性事件の繰り返しだと軽く見られているためであろう。

東日本大震災の大混乱の中で、暴動、略奪事件が起きる処か、その逆に老人や幼児に席を譲る日本人の姿は世界の目には奇跡と映った。

これは、隙あらば「勝ち」に走る「ウオールストリート価値観」が、日本の「お手本(ロールモデル)」として浸透していない証拠で、誠に喜ばしい。

お手本(ロールモデル)は時代や国柄によって異なり、下手に政治が介入すると、軍国美談の様に政治の特定目的に悪用される恐れもある。

そこで提案したいのは、内閣の指名に依る「国民栄誉賞」に加えて、国民が毎年のロールモデルとして選ぶ英雄にもう一つの「国民栄誉賞」を与える制度を設定し、多すぎる日本の祝日の中で、こじつけ的な意味しか無い祝日を国民の選ぶ「国民栄誉賞授賞日」として衣替えし、踏切事故での勇気ある行動などの庶民的英雄の勇気を風化させない祭日に切り替えたら、より意義のある祝日になると思うが如何だろう?

2013年10月4日
北村 隆司