「テスラ車」バッテリー火災事故で、時価総額3千億円焼失

北村 隆司

10月3日のUSA Today がテスラ・モーターの主力車であるModel-Sの路上火災事故のニュースを動画付きで報道したのに続き、4日(金)のNYタイムスなどがその詳細を伝えると、今年の株式市場のヒーローであったテスラ株の時価総額は、1日半で3千億円も燃えてしまった。


ワシントン州で起きたこの事故原因の真相は、米国道路交通安全局(NHTSA)が政府機関の一部閉鎖の影響を受けて活動が制限されている事もあり、かなり時間がかかりそうだが、路上にあったかなり大きな金属異物がバッテリーを直撃して、発火事故につながったものらしい。

消火に当たった消防夫の話では、この火炎の激しさは異常で、い消しても消しても再炎上し、車をひっくり返して発火元と思える部分を破壊して水を注入してやっと収まったと言う。

事故を起こしたMODEL-Sは、仕様により1台1千万円から1千5百万円の価格で昨年6月から納品が始まったテスラの主力車種で(http://en.wikipedia.org/wiki/Tesla_Model_S)、発売に当たり85 kWh のリチウムイオン電池を装備したMODEL-Sの走行距離は 265マイル(426 キロ)に及ぶと言う評価を米国環境庁から受け、市販の車では最大の走行距離を持つ車と認定されていた。

株価が急落したとは言え、依然として2兆円以上の時価総額を維持しているテスラモーター社の将来は、順風万帆を謳歌してきた同社の危機管理能力にかかっていると言うのが市場の見方である。

創立以来、順風満帆の好調を維持してきた同社が、危機管理を誤り少しでも情報隠蔽に走れば、同社のみならずEVの将来にも大きな影響を与えかねず、同社も創立以来最初の試練を迎えることとなった。

車の炎上事故が起こる度に安全当局による安全性テストが繰り返され、その結果として車の設計変更を要求された例も多く、この事故をきっかけに、ドリームライナーの電池事故以来暫く沈静化していたリチウムイオン電池の功罪が再論議され、米国道路交通安全局(NHTSA)の調査結果によっては、テスラの電源の抜本見直しの可能性もゼロではない。

GMが夢のEVとして世界に発表したVOLTやボーイング社の 787 ドリームライナーが、共にバッテリー事故で大きくつまずいた例もあり、金属異物が衝突して火災を起こしたと言うニュースも気掛かりで、若しバッテリーの位置や補強版に問題があるとでもなると、創立者でCEOのElon Musk氏が「世界で最も安全な車」と豪語するテスラのデザインの全面見直しも必要となるかも知れない。

然し、市場が気にしていた事はバッテリーの安全性問題より、その供給体制にあった。

東日本大震災発生を機に、一層現実味を増したパナソニック一社に頼る供給体制への不安は、サムソングループとの供給契約が最終段階に入ったと言う事で緩和されそうだが、更に難しい問題は、リチウムイオン電池の世界生産能力を総動員しても年間数十万台の車への供給能力しかない現状が急速に改善されないと、テスラの経営計画そのものの実現が難しいと言う事らしい。

話は違うが、テスラのMusk氏には及ばないまでも日本有数のビリオネアー富豪である福武總一郎氏が率いる「エリーカ」のSIM-Drive社も、テスラが先行している事実を逆用してその功罪に学び、ビジネスモデル、スタイル、技術の簡素化などに工夫を加えテスラに追いつき、追い越して欲しいものである。

2013年10月5日
北村 隆司