公的年金の運用改革で投資のリターンは向上するのか? --- 内藤 忍

アゴラ

日経新聞の朝刊に公的年金の運用改革の記事が掲載されています。厚生年金と国民年金合わせて120兆円を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、日本株式の運用方法を変える検討をしているというのです。

現状は120兆円のうちの12%(14兆円)を日本株に配分しているそうですが、その80%はTOPIXに連動するインデックス運用、残りの2割を個別に銘柄を選定して運用しているそうです。これを「成長企業へ重点的に株式投資ができるよう、東京証券取引所などが年内につくる新しい株価指標」を参考に銘柄選定する方向にするというのです。

果たしてどのようなインパクトがあるのでしょうか。


この新しい指標というのが明確に示されていませんが、自己資本利益率(ROE)の高い銘柄を対象に、経営の健全性や市場での取引量も加味して決めるとしています。対象は東証1・2部、マザーズ、ジャスダックの約3400の上場企業になるそうです。

もしこれが実行されるとすれば、今後2つのことを確認する必要があります。

1つは、TOPIXより広い銘柄を対象にすることによって運用成果が上がっているかどうかです。TOPIXは東証1部の株価の時価総額を指数化したものですから、東証2部や新興市場は含まれません。TOPIXに替わる運用としてこれらの市場の銘柄が組み入れられれば、リスクは高まりますから、それに見合った収益が実現できるかは重要です。

そしてもう1つは、この新しい指標自体の銘柄選択能力です。東証1・2部、マザーズ、ジャスダックの中から銘柄を選択するということですから、これはアクティブ運用になります。

これらの市場をすべてカバーするインデックスと比較して、果たして高いリターンが実現できるのか?これは対象とする市場の拡大とは別にチェックしなければなりません。

個人的には投資対象とする市場がTOPIXがカバーする東証1部から拡大するという1つ目のポイントには賛成ですが、その中から「新しい指標」で銘柄を選ぶという方法については懐疑的です。ROEの高い、経営が健全な、流動性のある銘柄を選んだとしても、それが運用成績の向上につながるほど市場は単純ではないと思うからです。

公的年金の運用というのは、国民全体の資産形成に大きくかかわることです。改革によって良い方向に変わるのはありがたいことですが、絶対にうまくいく保証はありません。定期的な検証が必要です。

運用改革の結果どのような成果につながったかについて、密室の議論をするのではなく、正確にわかりやすく開示をすることを期待します。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。