溺れる“不法”移民を助ければ罰? --- 長谷川 良

アゴラ

イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で10月3日、難民約500人が乗った船が火災を起こし沈没した。イタリアのメディアによると、300人余りが犠牲となった。6日午後(現地時間)、194人の遺体が確認された。救済された難民の数は155人という。

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▲ランべドゥーザ島沖の悲劇を報じるオーストリア日刊紙エステライヒ紙(7日付)


ボートに500人の難民が乗り、波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸からスタートし、約140キロ先のランべドゥーザ島を目指した。生存した難民の話によれば、危険な航海を計画したのはプロの人身売買業者だ。春や夏の海とは違い、10月に入ると地中海の波も荒いという。人身売買業者が難民に航海の危険性を伝達したかどうかは不明だ。ただし、2人に1人が生きてランべドゥーザ島に到着できると教えられたとしても、「難民はその航海を決して断念しなかっただろう。母国にもはや希望がないからだ。国に留まるより、危険を覚悟してボートに乗った難民が少なくなかったはずだ」という。メディア報道によると、難民は1人当たり1600ユーロ相当を人身売買業者に払っている。

イタリアのメディアによると、犠牲者の中には女性が多かったという。その上、難民の多くはエリトリア人、ソマリア人という。

以下は当方の推測だが、犠牲者はイスラム教徒が多かったと見て間違いがないだろう。とすれば、イスラムの女性は泳げない人が多い。なぜならば、イスラムの教えは公の場で女性が肌を出すことを禁止しているから、女性が水泳を学ぶ機会などないからだ。犠牲者に女性が多かったという背景には、泳げないイスラム女性が多かったことを物語っているのではないか。

ところで、島沖で溺れている難民を見つけた漁師は海岸警備船に即連絡したというが、海岸警備船が現地に到着したのは連絡が入ってから45分後だ。警備船がもう少し早く到着していたならば、救助された難民もいただろう。島まで500メートルもない海上で多くの難民は力尽きて亡くなっているのだ。

問題は、漁師が海上で溺れている“不法”移民を発見し、それを救った場合、不法移民を守ったという理由で漁師の船は押収され、漁師も告訴される可能性があることだ。イタリアではボッシ・フィー二法(Bossi Finni法)と呼ばれる移民対策改正法だ。同改正法は2002年12月に発効している。

ただし、漁師は目の前に溺れている不法難民を発見すれば、救済に乗り出すケースが多い。漁師の1人は「漁師としての当然の義務だ。もちろん、不法難民を救った場合、罰せられることを知っている」と話している。今回の悲劇を契機にレッタ伊首相は同法の再考を表明している。

ランべドゥーザ島のダミアノ・スフェラッゾ副市長はバチカン放送とのインタビューの中で、「犠牲となった難民の故郷は戦争状況だ。彼らは安全な生活を求めてボートに乗ったのだ。彼らは不法移住者ではなく、難民だ」と説明している。なお、ランべドゥーザ島の空港では5日夜、亡くなった難民たちの慰霊ミサが開かれた。

ちなみに、欧州連合(EU)は今月末、首脳会談を開催するが、移住者対策を緊急議題にすることを決定している。そこでは、開発途上国支援の拡大、人身売買業者への刑罰の強化などが話し合われるという。それに先立ち、欧州委員会のバローゾ委員長は9日、ランべドゥーザ島を視察する予定だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。