不可欠な欧米での成功に頓挫し続けるユニクロの経営戦略 --- 岡本 裕明

アゴラ

ユニクロのファストリテイリングが発表した2013年8月の通期決算は売り上げがはじめて1兆円を超えたものの内容的にいまひとつピリッとしない結果となっています。合わせて増配こそ発表したものの「成長」という言葉の捉え方に投資家と柳井氏の間に若干齟齬が生じている気がします。


私はかつてユニクロの経営姿勢に苦言を呈したことがあります。それは経営の質の向上よりも多店舗展開による規模の追求に頼っているということであります。ユニクロは10年ぐらい前までは質の向上を目指し、柳井正風の「一勝九敗」を貫いていたと思います。確かにあの頃は失敗も多かったのですが、柳井氏に勢いがありました。失敗を成功への糧にしていた柳井正氏が見えていた気がします。

その当時から柳井氏の夢であった売り上げ5兆円を達成するために海外への多店舗展開に踏み出すことになります。そして遂に前期、その第一歩である1兆円に達したわけです。これに関しては素直に素晴らしいと思います。

一方、ユニクロの海外の多店舗化が加速する中、利益率が海外店で悪い点が気になっています。13年の決算で見ると国内店舗の営業利益率は14.2%であるのに対し、海外はその半分の7.2%でしかありません。更に決算サマリーをみるともっとよく見えるのですが、中華圏(中国、香港、台湾)で営業利益の74%を稼いでおり、韓国は計画を下回り、欧州はブレークイーブン、アメリカにいたっては引き続き赤字と海外が全般的に好調なわけではありません。これは決算サマリーに記述されている「海外が大幅増収増益」を言葉通りに取りにくいと思います。

海外の多店舗化による売り上げ向上を目指すにしても成功しているのは中華圏など一部に限られる点に着目せざるを得ません。ユニクロはかつてロンドンで苦い思いをしておりますが、かなり力を入れて出店したニューヨークを含むアメリカでも苦戦を強いられているのはなぜでしょうか?

これも以前、指摘したと思うのですが、ZaraやH&Mとの圧倒的違いはユニクロがベーシックであるという点であります。前者が本当の意味のファストファッションとして取っかえひっかえ新しいものをおしゃれに着たいという女性の心理をうまくついているのに対してユニクロの場合、基本に忠実なものを大量に生産するスタイルから抜け出せない、つまり、少量多品種からは遠い気がします。また、ファッションという観点からは同じモノを着ている人には会いたくないどころか、「そのTシャツ、かわいいね、どこで買ったの?」といわれることに最大の快感があるものではないでしょうか?

そこからすると欧米人の感性を取り込みきれていない気がいたします。ところで日を改めて書きますが、中国や日本を含むアジア系は欧米のブランド崇高が非常に高い傾向にあります。つまり、欧米での成功がアジアへの成功に繋がりやすいともいえます。ならば、ユニクロにとって本当の海外戦略は欧米を攻略することであります。これは量より質、つまり、ユニクロファッションが欧米で本当に認められたというプロパガンダが欲しいところです。私ならそれがユニクロが目指す現時点の最大の質的戦略ではないかと思います。

ところで同時に発表された柳井正氏の65歳定年撤回発言。氏は来年2月に65歳になり、宣言通りだったならば後進に道を譲るところでしたが「今、自分以外に出来るものがいない」とし、引き続き経営の最前線に立つことにしたようです。柳井氏の気持ちは良く分かります。本当なら仕事量を半分にしたいのに任せられる状態にならない、というのは「柳井商店」だからこその展開であります。起業型経営者の悩みはつきません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年10月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。