カナダの金融機関から届いたレポートをみるとアメリカの金融緩和からの離脱開始は更に先延ばしになりそうだ、とコメントされています。「更に」とはいつをさすのか、これが興味あるところですが、アメリカが金融緩和から離脱できるのだろうかと考えたとき、案外、かなり遠いのではないかと改めて思い始めています。
今から10年ぐらい前、カナダの金利はアメリカの金利と同様、歴史的な低金利時代を迎え国民はこぞって住宅や高額商品をローンで買い始めました。その後、景気が上向き、一部専門家の間では近いうちに金利を上げるのではないか、と囁かれ始めました。当然ながら住宅市場では早めに金利をロックインするために更に住宅が売れるという状況が生じました。
私はその頃、資金の借り手で市場から毎月銀行振り出し為替手形を介した資金調達を行っていました。毎月借り換えでしたので当然ながら金融市場の動きには敏感にならざるを得ません。その際、懇意にしていた専門家が「そろそろ上がるから長めで取ったらどうかね?」という勧めに対し、「いや、短めで結構。カナダもアメリカも昔のような金利まで上がることはない。上がっても木の葉が揺れる程度だよ。」と述べたのを良く覚えています。
カナダ中央銀行は「金利が上がる」と狼少年になってから2年以上たち、中銀の政策会議では何度やっても金利は変わらず」がすでに30回近く続いているはずです。つまり最近は木の葉すら揺れていません。
前回のアメリカ、FOMCでは市場の期待を大きく裏切って、そして私からすればやはり、という形で金融緩和の離脱開始は行われないことになりました。専門家が「離脱開始だ」と叫び続けていたこともあり、その腕を下ろすには時間を要すというより専門家が自分で予想を外した理由を消化する時間が必要だったようです。
ここにきて北米の専門家のコメントは今年の緩和離脱開始はない、でほぼ一致してきています。早ければ来春という見方もありますが、私は読みにくくなってきたとみています。
理由は二つ。
一つはアメリカの自律景気回復が安定的であるものの力強さに欠けること、もう一つは債務上限問題と予算問題、ひいてはオバマ大統領の政治的手腕への疑問がアメリカの長期的ポジショニングを悪くしているということです。結果として金融緩和からの離脱という決定に踏み込めない状態を作っています。債務上限についてはわずか3ヶ月だけ延期しただけです。これは議員が今年ぐらいは楽しいクリスマスを過ごしたい(昨年は悲惨でした)と思っての1月の期限でありましょう。
格付け会社はネガティブへの見通しを「確信」に変えていくかもしれません。そのとき、国債の買い支えは必要です。イエレン氏は雇用やインフレが一時的に目標に達してもそれが安定するまでは方針を変えないとしています。これが何を意味するかと言えば一年後の今もほぼ同様の会話をしている公算すらあるのではないかということです。
ではインフレはもうどこか遠くへ行ってしまったのでしょうか?
そんな気もします。
カナダはEUとFTAで合意しました。私の楽しみはフランスワインがどれぐらい安く買えるようになるか、ということです。日本やカナダも参加するTPP。これが発効すれば日本酒はカナダでびっくりするぐらい安く飲めることになるかもしれません。
インフレはグローバリゼーションによりどんどん緩和される方向に進んでいます。むしろ、先進国ならば2%のインフレでは失格と言われる時代になってきています。
アメリカでこれだけ住宅市場が回復し、自動車が年間1500万台以上売れるのにインフレ率がこれほど低いのは世の中の仕組みがすっかり変わってしまったことに原因がありませんか? 経済学者も専門家もインフレの原因がどうして起きるのかもう一度考え直す時がきたと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年10月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。