「ドイツで起きたことは一定の時間の経過後、わが国(オーストリア)でも生じる」
オーストリアに住みだした直後、友人からこの話を頻繁に聞いた。そしてその内容が間違っていないことは、時間の経過と共に分かった。流行や世情だけではない。全ての分野でオーストリアはドイツの後を追いかけているのだ。独語ではドイツをGrosser Bruder,(兄貴)と呼び、Kleiner Bruder(弟)のオーストリア人は隣国ドイツで起きていることをみながら、「わが国でも同じようなことが近い将来起きるだろう」と呟くのだ。
▲オーストリアの隣国チェコのテメリン原子力発電所
前口上が長くなったが、当方はこのコラム欄で「なぜ、独で電気料金が急騰するか」2013年9月11日)の中で書いたが、オーストリアでも来年から電気代が急騰するのだ。ここでも、先述した現象は実証されているわけだ。
オーストリアはドイツと同様、再生可能なエネルギー、風力、太陽光の利用促進を進めてきたが、その設備整備のため今年、(年3500キロワットを消費する平均家庭で)約65ユーロを負担してきた。来年は約83ユーロに急騰、17年にはとうとう100ユーロに達すると予測されているのだ。昨年は39.20ユーロだったから、電気料金の急騰ぶりは誰の目にも明らかだ。
それに対し、関係当局は「17年を最後に再生可能エネルギーを普及するために実施してきた固定価格買い取り制度を廃止し、市場原理に基づく新エネルギー政策の実施をするので、電気代は下がる。また、隣国ドイツに比べ、オーストリア国民の負担金はその3分の1に過ぎない」と説明、国民に理解を求めている。しかし、どのように慰められたとしても、電気料金の急騰は国民にとって大きな負担だ。ちなみに、オーストリアでは昨年、全電気消費量の中で再生可能なエネルギーが占める割合は約11%だ。同国は15年までに15%まで高めていく計画だ。
同国は1999年、議会で反原子法(Atomsperrgesetz)を採択し、原発を建設する道を完全に塞いでしまった(その国の首都ウィーンに原子力エネルギーの平和利用を促進させるIAEA=国際原子力機関本部がある)。
実は、オーストリアでも原発が建設されたことがある。同国二ーダーエスタライヒ州のドナウ河沿いの村、ツヴェンテンドルフで1972年、同国初の原子炉(沸騰水型)の建設が始まった。ところが、同原子炉の操業開始段階になると、国民の間から反対の声が出てきたため、当時のクライスキー政権は1978年11月5日、国民投票を実施することを決定した。同政権は国民投票を実施しても原子炉の操業支持派が勝つと信じていたが、約3万票の差で反対派(50・47%)が勝利したのだ。総工費約3億8000万ユーロを投資して完成した原子炉は一度も操業されることもなく、博物館入りとなった。
この結果、“ツヴェンテンドルフの後遺症”と呼ばれる現象が出てきた。同国では原発問題を冷静に議論することができなくなり、オーストリアは反原発路線を「国是」とし、「反原発法」を施行し、欧州の反原発運動の主要拠点となっていったのだ。
そして福島原発の事故が明らかになると、同国のベルラコビッチ環境相は欧州全域の原子力発電所の耐震性に関する「ストレステスト」を提案するなど、欧州諸国の中でも反原発運動の先頭を走ってきたことはまだ記憶に新しい。
同国はアルプスの山々の豊かな水源を利用できるが、水力や火力ではエネルギー需要を完全にはカバーできないので、他国からエネルギーを輸入している。年々、その輸入量は拡大する一方だ。
反原発国のオーストリアにとって頭痛は、同国が原発推進国の東欧諸国に取り囲まれていることだ。オーストリアが反原発を施行したとしても、国境から僅かしか離れていない東欧諸国で原発が操業されているのだ。原発事故が生じれば、その放射能は国境を超えてオーストリアにまで及ぶことは明白だ。例えば、チェコは目下、原子力エネルギーの促進を進め、テメリン原発で新たに2基の原子炉を増設中だ。簡単にいえば、オーストリアが原発建設を断念したとしても原発推進派の東欧諸国に取り囲まれている以上、実質的な意味は余りないことだ。一方、はっきりとしている点は、反原発政策のため、国民は高い電気料金を負担し続けなければならないという事実だ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。