「フットボールエンターテイメント」を考える --- 西村 健

アゴラ

改革はかくも難しい。サッカーJリーグは、2015年からのJ1の大会方式を前後期2ステージに分ける制度が導入することを決めた。

リーグの収入減、入場者の平均年齢の上昇などへの危機感をもとに進めたそうだが、大手メディアなどでの世間的な認知度の低下、日本人選手の海外移籍、欧州のトップリーグの繁栄、中国や中東リーグなどの年棒高騰などを見ていると、内部で改革論議を重ねてきたなかでの苦渋の決断と考えられる。


他方、サポーターたちが反対するのもわかる。なんだか釈然としない感情もそうだ。両者とも欧州のトップリーグのように1ステージで雌雄を決着するほうがわかりやすいという認識は合意している。しかし、今後の展望が暗い。Jリーグの経営陣は本当に大変だろう。本当に頭が下がる。

そこで思うことがある。Jリーグを観戦して感じる「面白さ」とはいったい何なのか。そして「なぜ面白い」のか。

これらを分析、定義、そして紹介することが必要な時期にあるのではないか。Jリーグの観戦者調査を見ても、観戦の動機やきっかけの設問と回答結果は公開されているが、「何に面白さを感じるか」そしてその真相原因の設問は見当たらない。私が「Jリーグ、どういうところが面白いの? 魅力なの?」と友人から言われたときに、ぎょっとしたことがあった。「あの選手はすごい。こういう点が……」と答えてその場では対応したが、面白さを示したというより、自分の好みを示したような回答になってしまった。

言語化するのは結構難しい。相手に響く言葉を見つけるのも同様だ。そのため、なかなかうまく説得できないことも多い(大変申し訳ないが)。プレーのレベルで優れるプレミアリーグのテレビ放送を見ている友人を連れだすのはとても骨が折れる。正直マニュアルが欲しいくらいだ。

そもそもエンターテインメント業界の競争はとても激しい。ゲーム、インターネット、SNS、携帯電話、本や雑誌、映画、テレビ・ラジオ、音楽、自然などや付随する消費行動。共存関係のエンターテインメントもあるが、多くはライバル関係であろう。

時間を費やすという意味でのライバルはますます増えそうだし、とてつもない努力をしあって、ファン層の拡大と「マニア」への育成(顧客の囲込み)をしている。顧客も目が肥える。そのため競争は今後もますます激化するだろう。経営者の立場で考えると正直恐怖を感じるレベルだ。

たいていの人は、勝敗や勝敗に直結する決定的なプレー、スリリングな展開などが「面白い」のだと思う。

少しマニアックな「面白さ」としては、1つ1つのプレーの過程、トラップ・パス・ボール回しなどがあり、明らかにはならないがその背景には、その際の状況判断・選択肢ととった行動とその根拠、ゲーム展開と認識、認識の共有など。プロフェッショナルの研ぎ澄まされた技術や思考がある。

また、選手のタイプ、運動能力、持ち味、得意・苦手なプレー、調子・状態、監督のアドバイスなどのチームマネジメント、監督の指示・打った手といった背景、入退団など決断の動機を探るのも面白い。視野を広げるとチーム運営・営業・育成のメソッド、営業・マーケティング、スポンサー企業の活動などもそうだ。サポーターたちが盛り上がっている姿を見るのを面白いという人もいる。

見る、感じる、考える……そこには想像もつかない奥深さが潜在しているように思える。

勝敗やスリリングな展開、意外な結果は感情に訴える、プレーの質と芸術性は感性を刺激する、ドラマは人生を感じさせる。

顧客は何を見ているのか? それぞれの面白さや楽しさをどこに感じているのか? そしてどう記憶しているのか? 日常生活にどう貢献しているのか? どういったコミュニケーションをとって共有しているか?

それを探ること、つまり蹴球の「面白さ」の再考と最高の「面白さ」の研究が必要ではないか。千差万別の面白さを「何が、なぜ、面白いのか」を関係するみんなで一緒に考察する場を作ってみてはどうか。

個人的には、心理領域に踏み出すのはかなり違和感がある。しかし、「このプレーにはこうした判断がある」とメディアや専門家に提示されて初めて、面白さを認識することも多い。

これまで素晴らしい顧客志向のエンターテインメントを作り上げてきた選手、関係者、サポーターが一緒にじっくり皆で考え、行動していくことが、チェアマンがいう「フットボールエンターテインメント」の構築の一歩のはず。この20年で新たな日本の「文化」「社会資本」にまで発展させた功労者たちが本気になれば可能と信じたい。

「社会と人生を学べる幸せな空間づくり」のために、偉そうに発言してしまった本物のサポーターになりたい男より愛と感謝をこめて。

西村 健
日本公共利益研究所(NPO申請中)
代表