あらためて東電の破綻処理を考える ~ 汚染水処理で税金を投入する前に --- 杉林 痒

アゴラ

東京電力福島第一原発の汚染水処理で税金が投入されるという。安倍首相の「コントロール発言」がきっかけになり、福島原発の処理が進むことになった。この結果は望ましいことといえる。

これは、事故処理を東電がやりきれないため、国がそれを助けることを意味する。

事故は東電の責任で起きたことだ。東北電力女川原発は福島原発よりも震源地に近く、同程度以上の津波をかぶった可能性が高い。東北電力は女川原発を安全に止めたが、東電は事故を起こした。このことだけでも想定外の事故ではないことがわかる。


その東電に税金を入れるということは、東電の経営が破綻していることが大前提のはずだ。ところが、今回の税金投入では、そこがすっぽり抜け落ちている。汚染水のずさんな管理を知るにつけ、東電にはもうこれをコントロールするだけの体力がないことが明白だ。自分の責任で起きた事故の収束をする体力がない会社は、まず破綻処理をする必要がある。

日本航空の破綻処理をみてもわかるように、国がバックにつくことをはっきりさせたうえで会社更生法を申請すれば、業務は粛々と進んでトラブルを起こすことはない。更正法を申請しようがすまいが、金さえ払ってくれれば取引先も従業員も逃げ出すことはないためだ。

逆に破綻処理をしないと、資金繰りを考えて必要な措置をしない。従業員も取引先もいつ破綻するかわからないと、余計なことが心配になる。いまの福島第一原発はまさにそういう状況にある。いまJAL型の破綻処理をして困るのは銀行、株主ぐらいだろう。

あと、破綻処理の問題としてよく指摘されるのは原発の被災者の求償権がなくなることだ。これについては、国が賠償をすれば問題ない。いまの賠償の仕組みは、表向きは東電に責任を負わせながら、実際は原子力損害賠償支援機構を通じて国が東電に金を渡し、それを東電が被災者に渡す形をとっている。国は東電に金を返させると言っているが、東電はその仕組みの中で、他の電力会社と横並びの「一般負担金」を払いこそすれ、東電に独自に求められている「特別負担金」は払ったことさえないし、いつ払えるかもわからない。

ところが、東電は国から受け取った賠償資金をすぐには被災者に渡さず、「資金繰り」に使っている可能性がある。東電は今期、9月中間決算の時点で、原子力損害賠償機構から6663億円を受け取りながら2306億円しか支払いに回していない。この結果、自己資本が4000億円増えてしまうという不可思議な状況が生まれている。

もちろん、必要を認めていても受け取る前には渡さない。そのような対応をしていると、へたをすると資金繰り破綻する可能性があるためと見られている。こうして、東電が窓口になっていると賠償も除染も汚染水対策も後手に回る可能性が高くなる。

いつまでも、二人羽織のような面倒なことはやめて、本当の意味で国が前面に立って原発事故対応にあたるべきだ。そのためにも、今回の税金投入はよい機会だ。きちんと東電を破綻処理して、すっきりした形にしてもらいたいものだ。

杉林 痒
ジャーナリスト


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年11月12日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。