アメリカ連邦準備理事会(FRB)の時期議長候補であるジャネット・イエレン氏の公聴会があり、氏の金融政策に対する考え方に注目が集まりました。なぜ、この公聴会がそこまで注目されるのか、一連の流れをもう一度、易しくおさらいしながらイエレン氏の政策を考えてみましょう。
アメリカの金融政策はリーマン・ショック以降、金融緩和という手法でドルを刷り、ジャブジャブにした状態を作ることで経済の回復を図りました。事実、住宅市場は底打ちし、自動車販売も急回復しました。株式市場は最高値を更新し、その傾向は続いています。そのために現FRB議長であるバーナンキ氏は量的緩和というカンフル剤の注入をそろそろ止めることをオプションの一つとして考慮しました。それが今年5月22日の「今後数回の会合で資産買い入れは縮小可能」との発言に繋がります。
それ以降、市場は買い入れ縮小開始はいつか、というゲームに踊らされます。そこに1月で退任するバーナンキ議長の後任にオバマ大統領の後押しもあり、ラリー・サマーズ氏が急浮上しました。市場は同氏のタカ派姿勢に緩和縮小開始はほぼ確実とまで読み込まれました。
ところがサマーズ氏は日経のリーク記事の翌日、9月15日に辞退を申し出ます。日経の「サマーズ氏が次期議長へ」の記事は瞬く間に世界を駆け巡りましたが、それが悩めるサマーズ氏の背中を押した可能性は否定できません。
更に追い討ちをかける事態が起きたのがその3日後の9月のFOMCの時でした。多くの専門家、アナリストは7割近い確率で縮小開始をこの会議で決定すると予測していました。が、その結論は予想に反し、緩和継続だったのです。見方はいろいろあります。が、一つの可能性としてサマーズ氏の辞退によりイエレン氏の次期議長が確実視されたことでバーナンキ議長はそのバトンを彼女に託すことが出来ると考えたこともあるかもしれません。
事実、イエレン氏はハト派、失業率重視でインフレ率などの指数のブレを勘案するなど非常に慎重な性格の方です。声明の発表などでも用意したペーパーをきっちり読み上げるタイプでレールを外さない方と評したらよろしいでしょうか? 私は彼女が議長候補になった時点で当面の量的緩和縮小はないと書き続けてきています。当面とは最低でも来春まで、現実的には来年一杯でもおかしくないとコメントしてきました。
理由は簡単です。彼女の性格と目標に対する頑固さが中途半端な姿勢を見せることはない、ということです。インフレ率が十分上がることは1年程度では想定しにくいし、失業率は6.5%まで安定的に下がることはそう簡単ではありません。それに金利上昇は住宅市場や自動車販売に水を差します。その上、彼女は今日の議会証言で「ゴールは完全雇用」と述べています。
経済学的には完全雇用が生じるのは労働の質が下がる為、良くないことは彼女も知っているはずですからやや、ブラフに近いか「良質なる労働市場の需給バランス」と捉えたほうが良いのかもしれません。それは彼女がより民主的で労働機会の均等性を金融政策により追求していると考えたくなります。
来年にかけて経済指標がドラスティックに変わる事情が生じない限り、量的緩和継続のレールは当面続くとみるのが王道ではないでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。