ガラパゴス化する著作権 - 『著作権法がソーシャルメディアを殺す』

池田 信夫
著作権法がソーシャルメディアを殺す (PHP新書)
城所岩生
PHP研究所
★★★★☆



著者はアゴラでも、著作権の過剰保護についてたびたび警告してきた。アメリカではグーグルがGoogle Booksで著作権保護のオプト・アウト(権利者が拒否しない限り許諾したとみなす)への転換をめざし、欧州議会はACTA(海賊版防止条約)を否決するなど、少しずつ方向転換が始まっているが、日本は逆にまねきTV事件のようにクラウドサービスを禁止する方向に動いている。

この一つの原因は、日本の立法過程の特異性にある。立法府である国会がその役割を果たさず、官僚のつくった内閣提出法案が8割以上(重要法案のほぼすべて)を占める状況では、閣議決定の前に勝負が決まり、国会はほとんどチェック機能を果たしていない。特に著作権法のようなテクニカルで票にならない法律は、官僚が決めた通りになりがちだ。

審議会などの閉じた場での議論では既存の業界のロビイストが強く、彼らが官僚より情報優位になるので、regulatory captureが起こりやすい。一つの突破口はこういう審議会をIP放送などで公開することだが、民主党政権時代にやってはみたものの、事業仕分けのようなスタンドプレーが増えただけで大した効果はなかった。

もう一つは、著者も提言するように、今のあまりにも細密な著作権法や関連法をもっとゆるやかな規定にし、司法がフェアユースを幅広く認める方向に変えることだが、これはIP放送よりはるかにむずかしい。官僚が立法とその解釈を一手にもつ今のしくみを手放すとは思えないし、彼らに代わって立法する能力が国会にないからだ。

他方、中国ではスマートTVが前年比30%も伸びている。在来型のテレビが世界的に頭打ちになる中で、著作権の「無法地帯」である中国でテレビが売れていることは重要だ。コンテンツではほとんど投資が回収できていないが、ハードウェアが売れているのだ。

著作権は世界的に、著者が何も申告しなくても著作物になる「無方式主義」になっているため、二次利用のハードルが非常に高い。これを逆にして、中国のように無断で使うのを既定値にし、権利者がオプト・アウトする権利を認めればいいのだ。これによって著作物の大半を占める孤児著作物の扱いも楽になる。

もちろんこれは日本ではJASRACなどの猛烈な反発を買って、文化庁につぶされるだろう。裁判所も、まねきTV事件のようにITを理解していない。そういうことをやっていると「クールジャパン」も行き詰まり、今のように韓国製のコンテンツにアジアが席巻される。radikoと同じガラパゴス構造である。日本の役所や裁判所には何も期待できないので、私は中国や韓国の外圧に期待したい。