「横並び低金利」は新たな先進国病か --- 岡本 裕明

アゴラ

私はイエレン氏の公聴会の内容から当面、金利は上がらないとこのブログに書かせていただきました。当面とは来年いっぱいという含みと記しました。直近のニュースを見る限り2015年末まで金利は上がらないのではないかという見方も出てきたようです。市場というのはいい加減なものでその時その時のニュースや雰囲気、市場参加者の反応で右往左往するのですが、ある一定の信念を持っている人はほくそ笑み、それを横目で見ながらもまったく動じないものです。


アメリカのジョン・ポールソン氏が金を裏付けとする上場取引型金融商品(ETP)を大量保有していたのは有名でしたが4-6月に持ち高を半分にし、その後の展開について市場は注目していました。ところが、7-9月期に持ち高を維持したことがブルームバーグに掲載されています。生き馬の目を抜くといわれるウォール街において金の市場が6月には2年ぶりの安値をつけ、2000年以降続いた年間上昇記録が今年は切れるのが確実となった今、持ち高を維持した理由は何かと考えた時、ポールソン氏に金利は当面上がらないという読みがなかったとは言い切れない気がします。

なぜ、金利が上がらないのか、二つの要因が浮かびます。

ひとつは成熟先進国としての経済成長率の鈍化によるものです。日本がその先陣を切り、金利を下げても下げても市場はなかなか反応しなかったのは貸出先を絞る一方で優良企業からの資金需要がなかったことでした。アメリカでも金融緩和のプログラムを3回も書き直したのにインフレ率が上がらないと嘆いているのですが、資金需要は高くなく、貸し出す金融機関も極めて慎重になっていることが要因のひとつでしょう。

アメリカの銀行のバランスシートのトレンドを見ると全般に貸付の伸びは鈍化し続け、現金資産が大幅に増えています。法人向け貸付の伸びも下落トレンドを継続している上に銀行最大資産である個人向け不動産ローンはリボルビングタイプで厳しい下落が続き、当面期待できない状況にあります。

つまり、住宅市況が回復しているといわれながらローンが増えない矛盾が生じている説明が出来ないのです。考えられるケースとしてはこの住宅市況の反発は未だ自立反発の域を出ず、市場はshallow(浅い)とすれば今、金利を上げることはアメリカ経済に自殺行為とする見方が成り立たないわけではありません。

これはとりもなおさず、日本と同じ、成熟先進国型の資本主義経済の道を歩んでいるということでしょう。

ではもうひとつの理由ですが、アメリカだけ「一抜け」出来ないということです。グローバル化はモノだけでなく金融の世界も同じなのです。2008年の金融危機は瞬く間に世界を駆け巡り、世界は歩調を合わせるように低金利政策に突入したのです。あれから5年、アメリカは一部の経済指標の好調さをバックに金融緩和政策からの離脱を行うとすれば世界のマネーのフローに偏重をきたし、想定を超える影響が出やすくなります。つまり、少なくとも成熟先進国がそろって金利を上げる環境に足並みが揃うまで出来ないのであります。

以前にも指摘したのですが、米ドルは基軸通貨としての役割があります。世界の外貨準備で未だに62%がドル建てだという点からすればアメリカは自国経済の都合のみで金融政策は動かせないのだということは明白なのです。5月にバーナンキ議長が金融緩和離脱の可能性を示唆した際、新興国通貨の暴落が起きたのは記憶に新しいところです。

私は北米でビジネスをし、周りからの生の情報を聞きながら景気の色を見ています。カナダを含め、北米の景気は決して踊るようなものではありません。人々のお金に対する繊細さは2008年を境に大きく変わってしまいました。そしてあの時代の景気が戻ってくる感じは今のところありません。一言で表現するならばとても小粒にうまくまとまっている、と言ったらよいでしょうか。

では世界景気が一斉に上向くのはいつか、といえばそのきっかけは13億の消費が期待できる中国次第ということになりやしないでしょうか? とすればまるで「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話ですが、アメリカの金利は中国次第となるのでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。