薬のネット販売とビッグデータ

アゴラ編集部


きのうの「言論アリーナ」は、機材のトラブルで映像が流れず、失礼しました。修復した映像をYouTubeで公開しました。國領さんの話に重要な指摘があったので、紹介しておきます。

  • 薬剤師が既得権を守るために反対している面はあるが、それだけならむしろ問題はわかりやすい。深刻なのは「ネットが危険だ」と本気で信じて反対している人が多いこと。

  • 通信販売サイトも本部の側には薬剤師がいるので、争点は薬剤師がいるかいないかではなく、対面販売かどうか。テレビ電話などの手段でも伝えられない情報は、においぐらいしかない。
  • 本丸は処方薬。世界的には、Eメールで処方箋を送れば、処方薬もAmazon.comなどで買えるようになっている。薬のチェックも、こうした情報を使ってコンピュータでやったほうが正確。
  • 薬剤師には「ネットは信用できない」という思い込みがあるようだが、こういうビッグデータを使えば、薬だけでなく高度な医療をコンピュータでやれる可能性がある。
  • ただし医療情報はセンシティブなので、プライバシーをどう守るかなど、多くの問題があるが、今回はその100歩ぐらい手前で政府が介入し、可能性を閉ざしてしまった。
  • 医療の分野は国際競争が始まっており、Amazon.comには多くの医療情報が蓄積されているだろう。それを利用して遠隔医療をすることも将来は可能。ここで電子化を拒否すると、日本はプラットフォーム競争に負ける。
  • 厚労省はある程度わかっているが、官僚としては医療事故が起こった場合に国家賠償を求められるリスクはゼロにしたい。

ということで、この問題は日本社会にありがちな過剰コンプライアンスの一種のようです。これはマスコミや一般国民にも問題があり、予見不可能なリスクまで政府の責任にして「国が悪い」といいつのるのをやめないと、役所は動かないでしょう。

まだ国会審議もあるので、国会議員のみなさんにも理解してほしいのは、利便性と安全性はトレードオフではないということです。ネット販売で情報を電子化した方が安全性は高まり、イノベーションの可能性も広がります。日本はITの分野で労働集約的な「すり合わせ」にこだわって、国際競争に敗れました。同じことを医療の分野でも繰り返すのは残念です。

これから高齢化が急速に進む中で、医療費の抑制も重要な問題です。「命は金に代えられない」という殺し文句で思考停止するのではなく、医師も含めて医療の合理化が必要だ、という点を井上さんも訴えていました。