『僕たちはこうして仕事を面白くする』意識の高い勉強会を開くNHK

常見 陽平



自分では絶対に買わない本なのだが、『僕たちはこうして仕事を面白くする』(NHK「ジセダイ勉強会」編 NHK出版)を頂いた。NHKの局内勉強会の講演録である。NHKという放送局の変化と、ジレンマ、そして社内での勉強会の価値について考えてしまった。


結論から言うと、お得な本ではあるとは思う。20代、30代の、意識の高い若者がいかにも憧れそうなヒーロー、ヒロインたちの講演録を、手軽に読むことができるのだから。

安藤 美冬 、岩瀬 大輔 、刈内 一博、額田 純嗣、廣 優樹 、佐渡島 庸平 、柿内 芳文 、為末 大 という名前を見るだけで、意識が高くなりそうな面々である。

NHKでは、彼ら、彼女たちを呼んで勉強会を行っていたのだという。この行為自体、相当意識が高いが、これもまた「変わらなくては」という意識の現れだろう。たしかに、仕事の関係でNHKの職員(そう、NHKは社員ではなく、職員)と会う機会がそれなりにあるのだが、彼らとの打ち合わせでも危機感はよく話題になるし、面白いことをやろうという想いは感じる。

この勉強会、そして、この本を出すという行為自体が、そのあらわれだろう。

ただ、率直に言うと、この本は「これは良著!」と、数年前の佐々木俊尚風に叫ぶほどの本ではなかった。というか、この本自体、相当なジレンマを抱えていないだろうか。

若手著名人が講師の勉強会というだけで価値はあるだろうし、読者にとってはそれなりに面白いだろう。ただ、講演会ならではのライブ感、ここだけの話をしてる感が伝わってこないのがやや残念なところだった。

局内で行われた勉強会では、文字に起こせない、尖った話がもっと出ていたと信じたい。登場人物が著名であるがゆえに、知っている人には知っている話であり、既視感があり、無難なものに感じてしまった。いや、普通の感覚で言うならば、十分刺激にとんだ話であるはずなのにも関わらずだ。意識の高い局員が「tsudaります」なんて言ってつぶやいたら即刻左遷されるレベルの、もっと刺激にとんだ話が当日は聞けたのではないかと信じたい。そして、これこそ文字にするべきだろう。このあたりは、単に私の感覚が麻痺しているだけなのかもしれないが。

もっと呼ぶべき講師はいたのではないかとも思ってしまう。一応、プロ講師として講演を多数やっているものとして思うのだが、講演会、勉強会というのは、講師の人選もさることならが、事前の打ち合わせ、当日の雰囲気作りがとても大事である。世間では有名な人たちなのだけど、実は無難な人選ではないかと思ったり、赤裸々な本音、ここだけの話をしてくれるような仕掛けが必要だったのではないかと思う。ましてや、インナーの勉強会である。そして、NHKの職員は、このくらいの話で満足したのだろうか。だから、当日は、もっと危険な話が出たのではないかと信じたい。

私は『ニッポンのジレンマ』という番組が嫌いなのだが、この番組に抱く違和感、気持ち悪さとも似ている。ってみれば「若手を使ってやっているぞ臭」「若い人を理解しているぞ臭」というポーズの匂いとも言える。気づけば出演者には「御用若者」がいっぱいだ。他局で売れた人に声をかけて、利用する、という。まあ、ビジネス上は正しいのだが。

ためになる本、読みどころがある本ではある。個人的には刈内一博氏、額田純嗣氏の話が激しく参考になった。彼らは真性サラリーマンであり、比較的地に足のついたことを言っている方だと思う。現場での体験を語っていて、参考になったし、NHKの職員も聞くべき話だと思った次第だ。他の方は、有名すぎて逆によく聞いた話で既視感があったり、意識が高すぎて価値観が合わないと感じた次第だ。なんせ、私は『「意識高い系」という病』とか、『普通に働け』なんて本の著者なので、意識高すぎる話は無理なのだ。

もっとも、十分に値段分、面白い本ではある。サラリーマン時代のことを思い出してしまったりもした。「社内勉強会」って面白かったな、と。特に、最初に入った企業、リクルートは、なんせリクルート事件を起こしていたことや、情報誌からネットなどに移行する時期だったので、外部の声を聞こうという風土があり、会社全体でも、各事業部でも相当刺激的な人を呼んできて、ここだけの話を聞かせてくれていた。

企業の中にいると、刺激がなくなる。逆に外の勉強会は意識が高すぎて、ついていけない。社内勉強会というのは、そのような時にピッタリなのだけど、気をつけないと御用勉強会になる。何度も書いているが、この本に載っていない部分はもっと刺激に富んでいたと信じたい。

さて、NHKは変われるのだろうか。きっと変わると信じている。たしかに、EテレやBSを見ていると、実験的な番組も増えたなと感じる。この本に感じてしまった、無難な空気、若手を起用している風を超えた、何かが生まれることを期待しよう。

今度、勉強会を開くときには、偉大なるOBたちも呼ぼうぜ。

試みの水平線