フォーチュン誌が選ぶ「今年の最優秀ビジネス・パーソン」は? --- 安田 佐和子

アゴラ

日本では先ごろ、「今年の流行語大賞」50候補が発表されたかと存じます。翻ってアメリカでは、フォーチュン誌が21日に「今年の最優秀ビジネス・パーソン(Businessperson of The Year)」を選出いたしました。

今年もっとも活躍した企業トップに輝いた人物はというと……。

テスラ・モーターズの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏です!

fortune

フォーチュン誌だけでなく、マーケットウォッチでの「CEOオブ・ザ・イヤー」も獲得しており、2冠を達成してるんですね。

主力セダン「モデルS」につき足元1ヵ月半で3件の出火事故が相次ぎ、カリフォルニア州フリーモントの生産工場では従業員3名が負傷しました。運輸省道路交通安全局(NHTSA)は19日、ウェブサイトで出火原因の調査を開始すると発表。決算が予想以下に終わった後は弱り目に祟り目そのままに、リコールも意識され「モデルS」の売れ行きをテコに年初来で400%も急騰した株価は真っ逆さまに落ちていきました。

それでも、この栄誉にマスクCEOもほくほく?

迅速なダメージ・コントロールは、評価すべきでしょう。

対応策として、1)「モデルS」がNHTSAの安全性テストで最高を獲得していた背景から当局に採点基準を確認、2)当局が安全性の問題点を指摘した場合は直ちに改善、3)出火事故に対する保証の拡充――などを盛り込んだんです。NHTSAの調査員はCNBCでのインタビューで「非常に協力的」と好感してましたし、リスク管理の徹底ぶりは脱帽です。

マスクCEOは同時に、ブログやツイッターを通じた情報発信も忘れません。「『モデルS』が生産に入った2012年から、ガソリンを燃料とする乗用車は米国だけで25万件発生しており、400件の死亡事故と1200件の重症例を数えている」と指摘。さらに「『モデルS』はかなりのスピードで道路上の傷害に衝突したにも関わらず、負傷者も死亡者も出していない。それでも、ガソリン車より多くのヘッドラインを飾っている。ガソリン車が出火する確率が『モデルS』を4.5倍上回る点を踏まえれば、火を見るより明らかだ」と痛烈に批判していました。その頭脳と手腕だけでなく、実績に基づく揺るぎない自信も「現実のトニー・スターク」と言われるゆえんでしょう。

以下は、「今年のビジネス・パーソン・オブ・ザ・イヤー」のベスト10でございます。

1位 イーロン・マスク/テスラCEO、スペースX CEO、ソーラーシティ会長

→フォーチュン誌の朗報とともに、コンスーマー・レポートは21日に「モデルS」の顧客満足度につき100中99点と満点に近い高得点を与えました。悪いことも良いことも、続くものなんですかね。

2位 物言う投資家

→今年はアップルに対しカーン・アイカーン氏が自社株買いを求めデビッド・アインホーン氏が増配を突きつけ、マイクロソフトに対しジェフリー・アッベン氏が株価につき過小評価されていると発言し、ソニーに対しダニエル・ローブ氏が音楽・映画の娯楽部門の分社化を要求するなど、物言う投資家が大いに株価を動かしました。

3位 馬化騰/テンセント共同創業者兼CEO

→2004年のIPO以来、株価は10000%も急騰。おかげで馬化騰CEO、フォーブス誌が調査した中国の長者番付では資産総額102億ドル(1兆200億円!!)と、堂々5位にランクインしました。スナップチャットの買収にも乗り気だとか。

英語圏では馬CEOの苗字からポニーの愛称で親しまれております。

fortune-2

〔出所 : SFW)

4位 アンジェラ・アーレンツ/バーバリーCEO

→2006年にバーバリーのCEOに就任して以来、店舗にタブレットを配置するなど時代とニーズに合った戦略でイギリスが誇る名門ブランドの建て直しに貢献。アップルの小売・オンライン販売戦略において、上級副社長に就任することが決まってます。

5位 リード・ヘイスティングス/ネットフリックスCEO、ジェフ・ビューケス/タイム・ワーナーCEO

→ネットフリックス初のオリジナル・ドラマ「ハウス・オブ・カーズ」は、エミー賞で監督賞を獲得!株価は2010年から100%の上昇を遂げています。タイム・ワーナーは、タイム誌など出版部門を分離しTV・映画への集中戦略を発表。株価は過去3年間で2倍へ、年初来だけでも約40%上昇し快進撃を続けます。

6位 ジェフ・ベゾス/アマゾン創業者兼CEO

→2012年の1位から陥落したとはいえ、ワシントン・ポスト紙を2億5000万ドル(250億円)にて個人で買収したベゾスCEO。フェデックスやUPSのお株を奪い米郵政公社の協力を得て、日曜の配送を実現しアメリカ人を歓喜の渦に巻き込みました。食品へ進出しただけでなく、オリジナル・ドラマ「Bosch」、「The After」の制作にまで着手。クラウド事業も上り坂にあり、まさにウェブを駆使して蜘蛛の巣のように事業を拡大させています。

7位 豊田章男/トヨタCEO

→2009~10年の大規模リコール問題、東日本大震災の苦難を乗り越え、2012年にはGMから世界販売台数のトップを奪取。2013年も1-9月までで741.2万台と首位を維持し2年連続で王座を護る見通しです。豊田CEOがトヨタ主催のTRDラリーチャレンジで優勝を果たしたことも、記憶に新しい。

8位 ラリー・ペイジ/グーグル創業者兼CEO

→上場以来初めて株価が1000ドルを突破したグーグル。グーグル・グラスでテクノロジーを新たな境地へ押し上げるだけでなく、アンチエイジングを柱とした医療関連企業カリコを設立し、検索エンジンの枠を超え衰えることを知りません。カリコの始動は、ペイジCEOと共同創業者セルゲイ・ブリン氏、それぞれの奥様のバックグラウンドを踏まえると深く納得してしまいます。

9位 ウォーレン・バフェット/バークシャー・ハサウェイCEO

→説明不要の、生きる相場の神様。5月にツイッターを開始して以来フォロワーを70万人数えるのは、さすが。

10位 マリッサ・メイヤー/ヤフーCEO

→冴え渡る頭脳をフル回転し、CEOに就任してから矢継ぎ早に新戦略を放つメイヤーCEO。ロゴ変更に際し8月から30日にわたって毎日アイデアを発表する作戦が見事に奏功し、Web訪問者数でグーグルから首位を奪回しましたね。ソーシャルネットワークのタンブラーを12億ドル(1200億円)で買収し、ヤフーメールを刷新するなど40歳以下ならではの機動力がまぶしい。ちなみにフォーチュン誌「世界で最もパワフルな女性」にて8位、同誌「40歳以下の富豪ランキング」の1位と合わせ、3冠王の偉業を達成した初めての女性となります。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年11月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。