秘密保護法って何?

池田 信夫

きのう特定秘密保護法案が、衆議院本会議で可決されました。これを「強行採決」というメディアがありますが、これは昔の55年体制の言葉で、今は使いません。与党が衆参両院で過半数を占めているときは、閣議決定した段階で法案は通ることが決まるので、十分審議して修正した法案を採決するのは当たり前です。


「原発反対運動が弾圧される」とか言っている人は、条文を読んだことがないのでしょう。これは「わが国の安全保障に関する情報」を守る法律で、原発なんか関係ありません。いま日本には軍事・外交機密を守る法律がないため、「スパイ天国」といわれています。この法律は、それを防ぐスパイ防止法なのです。

だからマスコミは本来の取り締まりの対象ではないのですが、彼らは熱心に反対しています。政府の隠す情報を暴くのは彼らの仕事ですが、それが合法か違法かは別の問題です。毎日新聞の記者が沖縄の基地についての情報をもらした西山事件では、秘密を守る法律がないので国家公務員法違反で逮捕しました。このときの検察の手法には問題がありますが、外交機密だったことは事実です。こうした機密指定の手続きを透明化することも、今回の法律の目的の一つです。

アメリカでもペンタゴン・ペーパー事件がありましたが、政府のニューヨーク・タイムズへの差し止め命令は連邦最高裁判所で却下されました。国益が大事なのか、国民が真実を知ることが大事なのかはバランスの問題です。NYタイムズは起訴される覚悟で報道しましたが(実際に起訴されたのは情報提供者だけ)、最後は司法が判断するしかない。それを防ぐ法律そのものをやめろということにはなりません。

平和ボケの日本人は、スパイがいかに恐ろしいものか知らないでしょうが、第二次大戦中にソ連のスパイだったゾルゲは「10万人の兵力に匹敵する」といわれました。彼が日本軍の配備計画をスターリンに教え、そのおかげでソ連はドイツに勝ったからです。彼は死刑になりましたが、スパイはどこの国でも一番重い罪です。

なぜスパイは、それほど重要なのでしょうか? それは戦争がゲームだからです。トランプでいうと、情報がもれたまま戦争するのはカードを見せてポーカーをするようなもので、絶対に勝てません。第二次大戦では、日本軍の暗号はアメリカに筒抜けでした。これではどんなに戦力があっても勝てません。

日本は幸い70年近く戦争を経験していませんが、これは世界の歴史でも例外的な状況です。中国や北朝鮮は何をするかわからないので、最悪の場合にそなえる必要があります。軍事的な装備は十分あるので、必要なのは指揮系統と情報機関を強化することです。

この点でいうと、秘密保護法や日本版NSCより大事なのは、内閣の指導力です。きょう薬事法の改正案が、衆議院で可決される予定です。残念ながら、薬剤師会の政治的圧力にも勝てない安倍さんが戦争を指揮できるとは思えません。

追記:今回の話は小学生には無理なので、大人向けに解説しました。