朝日新聞は「結論報道」から撤退せよ

池田 信夫

朝日新聞のけさの朝刊1面は「反対デモ「絶叫、テロと変わらぬ」 自民・石破氏」。単なるブログの話を1面に載せるほど、朝日はネタ切れなのか。


よくも悪くも「社論」を決めて、すべての記事を統一するのが朝日新聞の特徴だ。朝日の人事には奇妙な風習があり、社長は政治部と経済部の出身者が交替でなり、社会部は(短期間のピンチヒッターを除いて)なったことがない。その代わり、論説主幹は社会部や外信部など「傍流」の指定席で、彼らが社論を決める。

今の論説主幹の大野博人氏は、外信部出身のようだ。彼の「できるかできないか考えないで原発ゼロにしよう」という号令で、朝日の記事はすべて「原発ゼロ」という結論を決めて書くことになった。発表に頼らないで独自に事実を探究するのが「調査報道」だとすれば、朝日は結論報道である。たとえば政治部の園田耕司記者の次の記事は、あらかじめ決めた結論にあわせて書いている。

「そんなこと言ったら懲役を食らっちゃうんですよ! 言えるわけないじゃないですか!」。電話の向こうから、いつもは温厚な取材相手に、激高した口調でまくし立てられたことがあった。今年6月、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた破壊措置命令の解除をめぐる自衛隊関係者とのやりとりだ。正当な取材であっても、これを話すと処罰されると、取材相手本人が伝えてきたのだった。私は初めて問題の深刻さに気付いた。

これが法案に反対する論拠にならないことは明らかだろう。この「自衛隊関係者」は今でも「言ったら懲役」なのだから、罰則が自衛隊法から秘密保護法に移行するだけだ。園田記者もバカじゃないから、いろいろ問題がないか取材したのだろう。その結果「法案で変化はありません」というとデスクに怒られるので、こういう感情表現をまじえて無理やり記事にしたと思われる。

原発ゼロもひどかったが、一分の理ぐらいはあった。今度の秘密保護法キャンペーンは、根本的な錯覚から出発している。それはこの法案が治安維持法のように一般国民の言論統制をするものだという勘違いだ。条文を読めばわかるように、この法律は特定秘密の取扱者を規制する法律で、報道機関は21条でわざわざ除外している。

田原総一朗さんや江川紹子さんは「公安警察の陰謀だ」というが、自衛隊も公安警察もガチガチの守秘義務に縛られていて、初対面のときは身構えるほどだ。彼らにもマスコミにも変化はない。西山事件が有罪になったことでも明らかなように、現行法でも外交機密の漏洩教唆は犯罪なのだ。

「特定有害活動が拡大解釈される」という話があるが、これは「核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動」である(12条)。あなたが核兵器をつくる予定なら、注意したほうがいい。

しかもこの法律は特定有害活動などを取り締まるものではなく、スパイやテロを防止する人を規制するものだ。したがって問題は自衛隊員や公安警察ではなく、今まで守秘義務のなかった出入り業者や政治家である。特に深谷隆司氏のいうように「特定秘密保護法の最も大きい意義は、実は政治家に守秘義務を課せられるようになること」だろう。

新聞がキャンペーンを張ることは悪くないが、それは一つの仮説だから、取材した結果、事実で反証されたら改めるべきだ。慰安婦のように誤りが明らかになっても逃げ回ると、日韓関係をめちゃめちゃにしてしまう。今回のキャンペーンは、朝日新聞の負けである。もう撤退したほうがいい。