ドコモの視野狭窄と根深いトラウマ --- 岡本 裕明

アゴラ

NTTドコモがABCクッキングを買収するニュースに対して厳しいコメントが集まっています。私もこのニュースを耳にした際、「はぁ、どこがABCを買うって?」と自問し直したぐらいです。同時に発表した4~9月期決算は前年比横ばい。むしろ、ライバルにあれだけ負け続けていてよく横ばいで収まったというぐらいではないでしょうか?

そして、ドコモはソフトバンクが目指す営業利益年間1兆円をドコモも守るために必死の防戦という構図が見て取れます。となればこれからいよいよ関ヶ原の合戦となるわけですが、ドコモにその勝算はあるのでしょうか?


両者の戦いを織田信長と武田信玄に比べた記事もありましたが、なるほど、説得力があります。織田信長は自身が国内統一というストレートな目標を持つのに対し、武田信玄は周りを固める手法である、という点においてまさにNTTドコモは守りの体制にあるといえるのでしょう。

私が気に入らないのはドコモが目標にしているのが利益であるということです。多分、昨今の経営戦略の迷走はそこに原点があると思います。既にらでぃしゅぼーや、タワーレコード、マガシークを買収しており、この路線としてはABCが四つ目ということになるのでしょう。理由づけとしてはスマホコンテンツの充実であります。ですが、私からすればドコモはスマホコンテンツを通じて顧客を一定方向に誘導するより自由度を持たせる戦略に出るべきだと思うのです。ところがドコモは自社のブランド力で一体的な利益確保を図ろうとしています。この顧客誘導はツートップ戦略にもみて取れます。

なぜドコモは顧客に狭い選択肢を与えようとするのでしょうか? ここが同社の最も理解しにくい方針であると思えます。今、マーケットは自由をいかに提供するかという時代です。ある色が付いた方向に仕向けるというトレンド戦略はドコモの戦略ではなく、ある特化された商品を持つ企業が取るものではないでしょうか。たとえばマガシークとゾゾタウンどちらが良いかといえばそれは顧客が決めることなのであります。ドコモのポジションは囲い込むよりも顧客の選択肢を増やすことに注力すべきだったはずです。

ではもう一つ。ドコモがなぜソフトバンクのような展開をしたくないのでしょうか? 私にはAT&Tワイヤレスの買収とその失敗が今でもトラウマになっているとしか思えません。2兆円もの巨額買収は完全失敗であったわけです。もう嫌だ、と思う気持ちは分かりますが、ならば数百億円のコンテンツ買収が企業戦略かといえばこれは本末転倒であると思う人は多いかと思います。

結局今のドコモは惰性の経営と言われても致し方ありません。防戦一方で経営は自己中心的、保守的です。もっと野武士のようなたくましさがなければ同社にはもはや成長という言葉すらなくなってしまうかもしれません。巨大企業だけに動きづらい社内の雰囲気はひしひしと伝わってきますが、これでは若い社内の人間も育たなくなってしまうのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年12月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。