企業の退職金が、大幅に下がっているという。
厚生労働省は21日、日本の民間企業における就労条件について調べた「2013年 就労条件総合調査」の結果を発表した。それによると、2012年に定年退職した大卒会社員(管理・事務・技術職)の退職金は平均2,156万円で、5年前の前回調査(2008年実施、2007年対象)と比べて335万円減少したことがわかった。
【2013年11月22日 マイナビニュース】
退職金の平均水準は、調査にもよるが、ザッと
・公務員、大企業 2,500~3,000万円程度
・中堅企業 2,000万円程度
・中小企業 1,500万円程度
といったところだ。ただし、この水準は、あくまで新卒入社の社員が定年まで1つの会社で勤め上げるケースを想定した、いわゆるモデル退職金を示している。
もともと、退職金というのは、退職時の月給に勤続年数ごとの係数を掛けて算出する方式が一般的であった。これに自主退職の場合、一定率が減額される。年功賃金だと定年前の月給が最も高く、勤続年数も最も長くなるので、定年前10年間くらいで加速度的に金額が積み上がる。50歳くらいまで勤務した社員なら、是が非でも定年まで勤め上げないと損なしくみといえる。
要は、「新卒で入社して、できるだけ全員が定年まで勤めてください」
という社員へのメッセージが、退職金という制度に含まれている。
国も、それを後押ししてきた。将来の退職金支給に必要な資金を、引当金として準備することを経費として認め、企業の法人税を軽減してきた。また、社員側にも、退職金への所得税は大幅に軽減している。
しかしながら、その前提は変わった。
退職金準備のための引当金は税金上経費として認められなくなったし、資金積み立て手段としての企業年金も過去20年は円高と株式市場低迷のため、運用難のツケを企業が払わされてきた。個人に対しても退職金への所得税強化が検討されている。そもそも、「全員が定年まで勤めてください」と思っている会社自体が減ってきた。
考えてみればいい。新入社員に対し、「あなたが順調に定年まで勤務してくれたら、何千万円の退職金を支払いますよ」と自信をもって約束できる会社がどれだけあるだろうか。
すると、退職金制度の運命は自ずと決まってくる。
なくなるとは思わないが、「毎年清算型」への移行が進む。
ただし、完全な前払いにしてしまうと、所得税や社会保険料の関係で、会社も社員も不利になる。そのため、中堅以上の企業は「確定拠出年金」、中小企業は「中退共(中小企業退職金共済)」などの社外積み立て制度を利用することになろう。会社としては掛け金として毎年支払うことで、将来負担をできるだけ軽減できる。今年に入って、全日空、パナソニック、NTT、富士電機と、確定拠出年金への移行が発表されているのも、その表れである。
個人としては、会社の外に積み立てられた金額を退職時に受け取ることで、当面は税制上のメリットを享受できる。そのような制度変更の中で、退職金水準自体も、冒頭のニュースのように企業の体力に応じた金額に収れんしていく。
企業は、退職金制度改革を進めている。次は、民間と比べて明らかに退職金水準の高い公務員の番だろう。財務体質から見れば、企業より明らかに緊急性が高いのだから。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”