人権デーに考える、援助交際というカジュアルな人権問題 --- 安藤 光展

アゴラ

■とても範囲が広い人権問題

12月10日は国連が定めた「人権デー」です。

国際連合は、1948年12月10日の第3回総会において「世界人権宣言」を採択し、1950年の第5回総会においてこの12月10日を「人権デー」と定め、各国に人権活動を推進するよう提唱しました。我が国では、法務省と全国人権擁護委員連合会が、世界人権宣言が採択されたことを記念して、1949年から、毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日から10日まで)を「人権週間」と定め、地方公共団体等と連携し、全国各地で人権に関する様々なイベントを集中的に開催しています。

みんなで築こう-人権の世紀


そもそも、人権ってなんでしょうね。世界では、人種差別・性差別、人身売買、難民、子どもなど、一口に「人権問題」といっても様々な領域・カテゴリーが存在します。日本国憲法にも、表現の自由や信教の自由、教育を受ける権利など、さまざまな人権に関する考え方が盛り込まれています。

本稿では人権デーに合わせて、身近な人権問題である、「ブラック企業」、「インターネット書き込み」、「援助交際(売春)」という大きく3つの枠組みを事例にして考えてみます。

■ブラック企業(CSR)における人権問題

法に厳密な人権領域がなんたらではなく、現実的な所で企業の人権問題についてまとめます。

日本における一般的な解釈で言えば、「セクハラ」や「パワハラ」などのハラセメント(迷惑行為)は人権侵害行為とされ、ブラック企業の労働実態も人権侵害とされています。

先週の2013年流行語トップ10に入った「ブラック企業」は、明らかに法律を遵守していない可能性が高く、まったくもってトレンドとしては笑えない状態ではあります。流行語の審査員の先生方は、深刻化する人権問題(ブラック企業問題)を所詮トレンドだと認識してらっしゃるのでしょうか?

それはさておき、先日「ブラック企業と労働時間の深い関係(日本人限定)」、「祝・流行語大賞受賞! 「ブラック企業」とは結局何なのか?」という記事でも書きましたが、国連から日本は長時間労働問題について再三ツッコミを入れられているのですが、厚生労働省などが部分的に動くだけで、日本の労働組織や仕組みに関しては大きな変化は見られない気がします。

企業活動における人権尊重の動きは実は体系化されつつあり、2010年にはCSRの国際規格「ISO26000」が制定され、その中でも主題として人権が取り上げられているくらいです。

企業における人権対策としての詳細は、先日書いた記事「CSRにおける人権問題とは何か?対策実施のための4つのポイント」、「ブラック企業問題は人権問題? 課題解決のためのラギー・フレームワーク「ビジネスと人権に関する指導原則」」をご参照下さいませ。

拙著『この数字で世界経済のことが10倍わかる–経済のモノサシと社会のモノサシ』でも書いているのですが、そもそも、日本の労働生産性の低さが先進国で18年連続最下位という状況があり、そういった背景も踏まえながら、従業員がターゲットとなる、人権問題に関われば良いのかなと思ってます。

■インターネットにおける人権問題

事実であってもなくても、ネット上の人権侵害は、被害者の生活を一変させてしまいます。いじめが原因で大津市の中学生が自殺した問題では、病院職員の男性が「加害者の親族」だという事実無根の内容を書き込まれました。勤務先には「辞めさせろ」「死ね」など脅迫電話が殺到。被害男性は「無責任な書き込みがどれほど苦痛を与えるのか知ってほしい」「拡散した人たちにも被害を知ってほしい」と訴え(11月08日、毎日新聞)、掲載した男性を相手に裁判を起こしています。

ネット上の人権侵害相談増加 泣き寝入りせず相談を

これはインターネットの話です。インターネットは匿名性が高い場合も多く、無責任な書き込みが後を絶たないと言います。日本では、法務省をはじめ、都道府県庁などが啓蒙活動を行っており、随時相談にものってくれているようです。

例えば、本メディアにもコメントがありますが、記事とは関係ない誹謗中傷を私向けに書くなどしたら、それは人権侵害にもなりうるということです。

もちろん建設的なご批判であれば、真摯に受け止め、記事の修正をしたり次回執筆時への反省点となるでしょうが、ただの罵声であれば、私は基本無視します。友人のブロガー達を見ても、そのように対応している人が多い気がします。

人権尊重と権利の主張による他人への迷惑
「人権尊重が叫ばれる一方で,権利のみを主張して,他人の迷惑を考えない人が増えてきた」と言う意見について,どう思うか聞いたところ,「そう思う」とする者の割合が77.7%(「非常にそう思う」24.2%+「かなりそう思う」53.4%),「そうは思わない」とする者の割合が19.8%(「あまりそうは思わない」19.0%+「全くそうは思わない」0.8%)となっている。

内閣府「平成24年人権擁護に関する世論調査」

内閣府の調査で浮き彫りになったように、自分の権利を叫ぶあまりに、他人の人権を侵害してしまうなんて可能性もおおいにあります。

■援助交際というカジュアルな人権問題

カジュアルに語られる援助交際。自由意志があったとしても、相手が18歳未満の場合は、それは人身売買に該当します。たとえ成人でも交際相手や配偶者に売春を強制させられている場合だってあります。これも人身売買に手を貸していることになります。

ニュースでよく見る「人身売買」って何? 強制労働や援助交際も

援助交際や売春などが、人身売買行為であり、人権を著しく侵害しているというのは、ほとんどのビジネスパーソンは知らない、もしくは意識していないのではないでしょうか?

援助交際は、やるやらないは別にして、時に軽く、会話の中に登場するワードの一つです。しかし、人身売買という人権問題の一端でもあるのが、援助交際なのです。ここまでカジュアル(タブーと言えばタブーですが)なワードでも、人権問題の範囲内となるということを知っておきましょう。

結論、企業も個人もまず知るべき人権問題の対策は、「人権を尊重する責任とは、人権を侵害しない責任である。」という点だと考えています。

あなたは、知らず知らずの内に、他人の権利を侵害しているかもしれませんよ?

(この記事は「CSRのその先へ」2013年12月10日の記事を再編集して転載しました)

安藤 光展
Yahoo!ニュース個人