安倍首相の東南アジアに対する思い入れは歴代首相のレベルからすれば「異常値」ともいえるほど熱いものを感じさせます。今般行われた日本とASEAN(東南アジア諸国連合)との東京での会議も安倍首相の熱意をそのまま引き継ぐものだったといえましょう。首相はなぜ、そこまで東南アジアに肩入れするのか、そのあたりを考えてみたいと思います。
東南アジア諸国連合は現在10カ国で成り立っていますが、目先のキーとなるのが2015年のASEAN経済共同体で経済統合を行い、モノやサービスの行き来が自由になるようにするというものであります。EUは通貨まで統合しましたが、コンセプトのベクトルとしては同じ方向であると考えてよいかと思います。この統合案、実は2015年統合でも当初は1月1日に統合させる目標でしたが事務作業が難航し、とても達成できないと判断され、現在同年の12月末までにという実質一年先送り状態になっています。
理由は10カ国のバックグランドがかなり違い調整が困難ということでしょうか? まず、経済的には資源主体のブルネイや金融のシンガポール、製造業のタイといった具合にその特質はかなり違います。次に宗教的バックグラウンドがあります。タイの仏教国からインドネシアのイスラム、更にはフィリピンのようにキリスト教の国もあります。中国との関係を重視する国、距離感がある国も大きな引力がその影に見て取れます。もっと言えば経済的な発展過程(GDP)はあまりにも大きな違いがあります。
一方でインフラを見ると南部経済回廊のように各国間を貫通する道路などが積極的に建設され数年後の新経済共同体によるモノの移動の自由化を念頭に置いた準備は着々と進んでいる状況です。
EUや北米のNAFTAと比べると人口はASEANが6億人とEUやNAFTA地域より3割以上多く人口メリットは非常に大きいと判断されます。一方で域内GDPをみるとASEANのそれは欧米のそれに比べざっくり10分の1でしかないのです。逆に言えば、域内自由化に伴う潜在的経済成長のチャンスは爆発的なものがあると考えてよいかと思います。
日本政府がここに目をつけ、安倍首相の再三に渡る同地域への訪問はそういうバックグランドがあるということなのです。今回、日本で行われたASEANプラス日本の会議において飛行の自由化を共同声明に挙げたとありますが、実質論からすればこれは政治的色彩が強く、日本の目指す本来の経済的関係の強化の本筋からは外れています。それが意図的に行われたのか、マスコミがその部分のポピュラリティをもって取り上げたのかわかりません。ポイントは日本がASEAN諸国と緊密にそして、ODAなどを含む経済協力を更に推進することで日本には将来的に大きな果実がもたらされるということであります。
日本企業は中国の13億という人口に目が行きやすいのですが、ASEANも6億で消費的に成熟した日本と比べれば潜在消費能力からすれば実質10倍以上の投資価値が生じることは簡単に証明できるはずです。勿論、中国、韓国がこれを黙ってみているわけはなく、たとえば韓国のベトナムへの進出ぶりは日本を凌駕しているかもしれません。が、日本は個別案件にこだわることなく、域内経済や社会、文化など大所高所からの発展を手助けし日本の貢献を継続することが重要かと思います。
それは企業にとってもリスク分散に繋がります。安倍首相のアベノミクスはここに来て大丈夫か、という声が高まっているのですが、あまり目立たないASEAN外交やトルコとの交渉などむしろ外交面で首相は頑張っているように思えます。期待したいと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年12月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。